第1話 願いのトビウオ

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「今日は角煮があるぞ、マグロは好きかな?」  階段堤防に弁当箱の蓋を置いて、角煮をチガ子に差し出す。チガ子は一瞬、不思議そうな顔をしたが、やがてそれが何であるか察したらしく、目付きを変え、角煮に食い付いた。 「うちは貧乏だから、肉はあまり食べられない。でも角煮が君の好みに合って良かったよ」  時々首を振り、チガ子は角煮を捌くようにして食べた。角煮を食べ終えるとチガ子は僕の膝に乗ってきた。よほど嬉しかったらしい。  チガ子は僕の太ももを、ゆっくりと押し始めた。僕は驚いた。これが「ミルキング」か。リラックスすると猫は、前足で足踏みするような動作をする。母猫から母乳を貰っていた頃を思い出しているのだ。Youtubeで見たことはあったけれど、体験するのは初めて。 「チガ子、明日も来るよ。何か欲しいものはある?」 「ミルク」 「そうかミルクか」  はい?  チガ子が喋った? 「チガ子喋れるのか?だったらもっと話がしたい、何か言ってくれないか?」 「……」
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