夢と希望の花

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 旅行から帰ってきたエヌ氏は、さっそく種を庭に植えた。高い金を出して買ったのだ。立派に育ってくれなくては困る。エヌ氏は、毎日かいがいしく世話をした。  そのかいがあったのかはわからないが、種を植えてから一年後、育った植物が実をつけた。エヌ氏がころあいを見計らって種を取りだす。しかし、期待に反して見た目はほとんど変わっていない。 「や、なんてことだ。まったく大きくなっていないではないか」  あの老婆にだまされたのではないかと、衝撃を受ける。だが、この種を買うのに大金を支払ったのだ。簡単にあきらめてなるものか。もう一回試してみないと気がすまない。  今度は植える場所も考え、事前に種の重さも量っておいた。そして、また一年が経過した。実から種を取りだしたエヌ氏が呆然とする。 「まただ。植える前と同じではないか」  念のため、重さを計量する。すると、ほんのすこし重量が増えていた。 「や、これで増えているというのか」  それは、本当にささいなものだった。植えるたびにこの速度で増えていくのなら、この種が金塊になる前にエヌ氏は寿命を迎えてしまうだろう。ていよく老婆にだまされたのだ。ただ、エヌ氏にはどうすることもできなかった。植えるたびに種の重さが増えていくことも、老婆にとって時間が足りないことも、なにひとつうそを言っていなかったのだから。 〈了〉
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