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「みんな! この子が春花ちゃん!」
控室の奥に向かってユカ先生声を張ると、板張りの床に座り込んでいた数人の女性が顔を上げた。
ダンスクラブのOGたちらしい。
みんな、ユカ先生と似たり寄ったりの格好をしている。
「話したでしょ? バックダンサーをしてた春花ちゃんよ」
彼女たちの目に、探るような色が浮かぶ。
「誰の後ろで……?」
挨拶もそこそこに、誰かが聞いてきた。
有名どころの名前を3つ4つ出すだけで、みんなの顔色が変わる。
そんな目で見ないで。
私は、逃げるようにマスクをずり上げる。
また別の誰かが聞いた。
「今は何を?」
「今は何も。コロナとかあって……」
私は曖昧に答える。
コロナ禍。便利な言葉だ。
全てをぼかして、みんなを納得させてくれる。
喉に、苦いものが込み上げた。
コロナの煽りを受けて、ショービジネス界がこれまでにない危機に陥っているのは事実だが、私が最後にステージに立ったのは2年半前。コロナが流行り出す前だ。
誰も知らない。
私が振り落とされたのだということを。
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