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子どもの頃を思い出した。
先生が曲のイメージに合わせて選んだ衣装の代金は、月謝とは別。
ヘアメイクも先生の指定通りになるよう、場合によっては前日の夜から髪を巻いたりする。
私も、母にそんな風にしてもらっていた。
衣装に袖を通してメイクをすると、スターになれたような気がして高揚感を抑え切れなかったものだ。
でも。
職業としてのダンサーは、安定したものではなかった。
分かっていて飛び込んだ世界。
ただ走って、走って。
夢の端っこを、どうにか掴んだ瞬間。天にも上る気持ちだった。
ダンスができればそれで良かった。
振り落とされるまでは。
体力も技術も、研ぎ澄まされていなければ終わりだ。
振り落とされた、その時から。
踊ることが苦しくなった。
純粋にダンスを楽しむOGたちを、側に感じるのは辛かった。
私が喝采を受けられるのは、こんな場所だけなのかと思う。
都市に隣接した開けた町ですって澄ました顔をしながら。
ディズニーランドに行った回数を競ってるような、こんな田舎の小さなホール。
分かっている。
ダンスに対する姿勢も、人としての在り方も。
私は、ここにいる誰よりも劣っている──。
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