リハーサル

5/5
前へ
/16ページ
次へ
 子どもの頃を思い出した。  先生が曲のイメージに合わせて選んだ衣装の代金は、月謝とは別。  ヘアメイクも先生の指定通りになるよう、場合によっては前日の夜から髪を巻いたりする。  私も、母にそんな風にしてもらっていた。  衣装に袖を通してメイクをすると、スターになれたような気がして高揚感を抑え切れなかったものだ。  でも。  職業としてのダンサーは、安定したものではなかった。  分かっていて飛び込んだ世界。  ただ走って、走って。  夢の端っこを、どうにか掴んだ瞬間。天にも上る気持ちだった。  ダンスができればそれで良かった。  振り落とされるまでは。  体力も技術も、研ぎ澄まされていなければ終わりだ。  振り落とされた、その時から。  踊ることが苦しくなった。  純粋にダンスを楽しむOGたちを、側に感じるのは辛かった。  私が喝采を受けられるのは、こんな場所だけなのかと思う。  都市に隣接した開けた町ですって澄ました顔をしながら。  ディズニーランドに行った回数を競ってるような、こんな田舎の小さなホール。  分かっている。  ダンスに対する姿勢も、人としての在り方も。  私は、ここにいる誰よりも劣っている──。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加