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第1話 行き倒れの旅人
島には橋が一本だけかかり、山菜がたくさん採れる山と釣りができる海、キャンプ場と温泉がある。漁港には野良猫が走り、海鳥が飛ぶ田舎を絵に描いたような島には連休になると静けさを求める人達がまあまあやってくるので、それなりに暮らしている。
私、高吉星名は両親が経営している民宿『海風』を手伝いながら、本業の仕事をする日々だ。
民宿『海風』は長閑な島の小高い丘の上にあり、庭や二階の窓からは小さな漁船が並んでいるのが見える。
庭に洗濯が終わった白いシーツが気持ちのいい五月の風にはためいていた。
眺めがいいのも民宿『海風』の売りの一つで二階の窓から見える青い海とポツポツと見える民家は癒されると評判だった。
「星名、洗剤が切れたから買ってきてくれない?」
「はーい」
洗濯籠を裏口から放り込んで、キャメルのレザーショルダーバッグを肩にかけ、納屋にある赤い自転車を出してくるとそれに乗って坂道を一気に下っていく。
島には小さなスーパーが一軒だけあり、コンビニはない。
コンビニは橋を渡った先にあるけれど、車に乗って三十分もかかる。
不便だけど、それでも島で暮らしているのはここが好きだからなんだと思う。
坂を下り、海沿いの道路を走る。
潮の香りがする風に一つに縛った髪がなびいていた。
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