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「兄弟そろって旅が好きなんだね」
お父さんに言われ、朝日奈さんは苦笑した。
「はあ、まあ」
「朝日奈さんが草むしりしてくれた畑でとれたトマトなんですよ」
レモンオリーブオイルと塩コショウ、酢だけのシンプルなトマトサラダは湯むきして食べやすくしてある。
「おいしい」
「そうですか?よかった」
「兄さんが草むしり!?」
ごすっと手の甲で顔面が殴られ、亜弦は言葉をさえぎられた挙げ句、痛そうに顔を撫でていた。
にこやかに朝日奈さんは食事をしていたけれど、亜弦の方は終始、戸惑いを隠せていなかった。
「デザートに梅酒のゼリーがあるんですよ。朝日奈さん。今日は泊まっていきますよね?」
「もちろん」
「じゃあ、大丈夫ですね。亜弦も梅酒ゼリー食べる?」
梅酒で作ったゼリーはガラスの器に入れて固めて、桃の缶詰と甘納豆をいれて夏らしく涼し気なデザートで評判がいい。
「食べるよ」
「亜弦?」
「あー、かしこまったの嫌いだから、俺が星名って呼ぶ代わりに亜弦って呼ばせてるだけ」
「年下のくせに初対面から呼び捨ててきたんですよ。生意気ですよね」
「誰が生意気だ!図太そうなわりに細かいこと気にするんだな」
「誰が図太いよ!」
まったく、失礼なやつね。
朝日奈さんの大人な対応をちょっとは見習ってほしいわ。
見てよ、この余裕を―――と思ったけれど、朝日奈さんは亜弦を軽く睨んでいた。
―――亜弦に対してはそうでもないみたいだった。
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