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「ふん」
写真を見て小さく父は鼻で笑った。
「お前も子供ではないんだ。お互いに見合った相手と結婚し、後は愛人でも持て」
「父さんのように?」
「そういうことだ」
男女二人がホテルに入って行く写真を父は灰皿にのせ、ライターで火をつけると焼いた。
婚約者の不貞を見なかったことにしろということか。
「土地の買収を進めろ」
婚約者のことなど、父はどうでもよかった。
会社の利益、それだけだ。
貴子との婚約もその一言に尽きる。
返事の代わりにお互いに睨み合った。
「伶弥、話はもう終わりだ。今日は予定が詰まっているからな」
今から父の遊び仲間達とゴルフか会食にでも出かけるのだろう。
優雅なものだ。
真面目だった祖父とは大違いだ。
口の悪い人間は『遊びを知らない』と笑ったが、朝日奈建設を大きくしたのは祖父だ。
父はその祖父が作った繋がりで契約をとっているという現状を理解しているのか、どうか―――していないだろうな。
溜息をつき、社長室を出た。
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