4話 死神と陽キャ

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4話 死神と陽キャ

 僕らは人混みを避けるため、繁華街を避け、裏道を使って移動をする事にした。 「つか、ファントムって至る所にいるわけか。ぜんぜん気付いてなかったかも」 『事故現場とかに多いから、意識しないと見えないと思うよ? 羨ましい気持ちとか、妬ましい気持ちの具現化だから、幽霊ともちょっと違うのかもね。それにさ、基本的には大人しいんだよ? ほとんど動かないし。だけど、死神が憑いた人間には大反応で寄ってきちゃうんだよねぇ』  あちらこちらと視線を配りながら梶君が言う。  ヴィオは僕と梶君の肩を掴んでふわふわとついていて、宇宙飛行士みたいだ。  僕が眺めていると、ヴィオは僕に視線を投げて、愛らしく首を傾げてくれる。 「なるほどねー。あ、奥の路地にいるわー。なんかこっちに来たそうだけど、移動できんみたいね。よしよし!」  人の背中でしか移動できないと知ったからか、少し心に余裕ができたようで、まじまじとファントムを眺めて、頷いている。 『ね、なんでお姉さんはタイガって呼んで、友達はトラって呼ぶの?』  ヴィオの質問に、梶君は小さく肩をすくめて見せた。 「んー、最初はさ、名前が大河だから、タイガーだったんだけど、オレ、猫派なのね。で、特にトラ猫が好きで、それでトラになった。あ、トラって呼んでよ」 『タイガーからの虎かと思ったら、トラ猫好きからトラになるなんて。かわいいね、トラちゃん』 「トラちゃん、はやめて。なんだろ、なんかムズってするっ」  僕は二人の会話を聞きながら笑ってしまう。  僕もこんな風に人と話すことができたら、少しはマシだったんだろうか。 「ゆきちゃんは、映画、どんなのがいい?」  梶君からの呼ばれた僕だけど、思わず立ち止まってしまった。 「お、なんか、好みとかある?」 「え、いや、今、ゆきちゃんって……」 「ヴィオちゃんがそう呼んでるし、オレのことトラちゃんだし、もう、おそろいにしよーぜ」  これが、陽キャというヤツなのか……! 「えっとね、今の時間からやってるのは、タヌえモンの妖怪陣取り、と、青春系のやつと……」  再び梶君が歩きながらスマホを眺めていると、ヴィオはそれを覗き込みながら、画面に指をさした。 『あたし、タヌえモンがいい!』 「これ、過去のリメイクだけど、いいの、ヴィオちゃん?」 「僕も、ちょっとタヌえモンは……」 『タヌえモン、好きなの! それにしよ、ね?』  なんでタヌえモン……と言いつつも、女の子のお願いは聞き逃せないようで、見る映画はそれに決まってしまった。  僕は嫌いだ。……と言えなかったのも悪いんだけど。 『あたし、タヌえモン、可愛くて大好き! ゆきちゃんは?』  首に腕を回して背中に張り付いてくる。 「ちょ、重いよ」 『ありえないんですけどぉ。空気よりも存在感のない死神のあたしが、重いわけないじゃーん』  言われてみたらそうだ。  だけど、ヴィオがぶら下がる背中はほんのりと温かくて、少し重みがあって、何故かそこにいることを感じてしまう。  くっついてくるヴィオを改めて見るけれど、彼女は迷惑そうな僕をそっちのけで、タヌえモンがどれだけ好きかを語ってくる。 『ヤバい。ちょー楽しみ! どんな感じになってるのかなぁ……』 「ヴィオちゃん、ウキウキだねぇ。フルCGらしいし、結構いい感じかも」  二人の楽しげな声を聞きながら、僕は、十年と口の中で呟いた。  ──十年。  あの日から十年も経ったのか……。  幼馴染が大好きだったタヌえモン。だから、僕は嫌いになった。  よりによって、スミレと見た映画のリメイクなんて。  今日が僕の最後の日だからだろうか……。  皮肉が効きすぎてると、僕は思う。 「死にそうな顔してるけど……って、死にそうか!」 「え、いや、うん」 「わりぃ! ごめ……オレ、ちょっと調子に乗った……」 「ち、違うからっ。その、昔、幼馴染と一緒に、この映画、見ててさ」 「へぇ、幼馴染って、もしかして、女子的な?」 「そうだね、女子は女子、……だね」 「え? オレ、男だけど恋バナとかマジ好きなんだけど」 「いいからいいから! ほら、行こう」  僕が足を早めると、梶君が小走りについてくるけど、僕の雰囲気を察してか、梶君はスマホをいじりだす。  気の使い方が上手すぎて、僕は爪先を見ながら歩くので精一杯だ。
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