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「ここから見る絵画館の景色、車の中から見るのとなんだか違う気がしますよね」
俺に戻すことなく方向を変えた面は、
「どっちかっていうと、車の中からのほうが好きかな」
ほがらかに継いだ。
こっちもなにか返さなくては、と考えて出たのが、
「マニュアル車は、大変でしょ」
そんなことだった。しかも、自身でもわかったおどおどとした台詞運びが、情けなかった。
「はい。ほんとはオートマがよかったんですけど、どうせぶつけるんだから、古くからあるうちので練習しろって」
変わらない柔らかな笑みが、ここで俺に返った。
が、途端、それをかき消した彼女は、
「あ、休憩中ですよね。すいません」
襟元までのショートヘアーを揺らした。
「あ、いえ……。こっちも一日、ほとんど会話なんてないから……」
だからなんだというんだ……と突っ込む頭は、自然とジャケットのポケットへ手を滑り込ませ、煙草をつかみださせた。
「あ、ベンチででも」
と動いた口に、自分で驚いた。
なにいってんだ、俺は……。
「いいんですか?」
ぱっと晴れた表情が、心拍を急上昇させた。
「ええ……」
心拍とは逆に、俺の顔は急下降した。
自分でいっておきながら ……。
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