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  「越前てめえ! 相変わらず血も涙もねえな!!」 「では単独で動くといい。僕の知能を用いらざるとも力丸くん、きみのその矮小な脳味噌でも趣向を凝らせば相手に辿り着けるかもしれんぞ。いかんせんチンパンジーは利口だ」 「ゴリラだ!! あっ」 「適用外であれば仕方ありませんね」  机上に放り投げられたノートを手繰り寄せ起立すると、背中まで伸びた阿佐美の真っ直ぐな黒髪がさらりと揺れる。その齢は越前や今まさにその胸ぐらを掴んでいる力丸と同じはずであったのに、どこか清廉された深みがあった。耳に髪を引っ掛ける、その動作、指先一つ神経が研ぎ澄まされているような。 「聞き分けが良くて何よりだ。この脳筋ゴリラに爪の垢を煎じて飲ませてやるといい」 「だあ———!!」 「この名誉会、何でも無償で引き受けていらっしゃるそうですね。お相手のわからない人探しを依頼するんです、御礼と言っては何ですが私の祖父が構えている古書店に昨今、有名な偉人の哲学書が入荷されたそうです。なんでも90年代に一度出版されるや否やコレクターが買い占めて絶版になってしまった物だそうで…〝古代ギリシア思想三大哲学者達が述べる知の爆発〟について、越前さんのお気に召すと思いお取り置きをお願いしていたんですが撤回の依頼をしますね。残念です」 「やりましょう!!!!!!!!!!!!!!」 「声でか」  知の爆発??? 知の爆発なの??? と爛々とした目で挙手をした越前は速やかに阿佐美の手を掴むとソファに引き戻し、自身もまた近くの戸棚からアンティーク柄の真新しいティーカップを取り出すと白眼を剥いてまたもドン引きしている力丸の背中を叩く。 「何をぼさっとしているウスノロが、あ、珈琲がいいですか? 紅茶ですか?? バリスタ動かしましょうか??? 僕が一走り行ってきましょうか???」 「いえ、それでは紅茶で」 「かしこまりました、おい力丸とっとと職員室に行って一番高価な紅茶を(こしら)えてこい僕の名前を出せば職員が二つ返事で阿佐美さんに匹敵するメニューを用意してくれるはずだ 8分で行ってこい。いや5分だ」 「手のひら返しきも」 「座布団引きましょうか? あっ机拭きますね〜」 「知の爆発に対する食らいつききも!!!!!」
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