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「とりあえず私と貴方は一緒に暮らしていたんだよね、こんな私なんて気まずいからルームシェアやめようか?」
その言葉に彼女は驚き必死に嫌だという顔をする。
「有里自分の事も覚えてないのに親といる方が大変でしょ?有里と一緒にルームシェアするってなったのも有里が高校の事で親と揉めたから一人暮らしするって言ってたからルームシェア提案したのに!だから私といた方が絶対楽だって!」
そう彼女は力強く答えた、そうだったのか、私は親と揉めて彼女とルームシェアするという形で親と離れて暮らしていたのか。
「んー…じゃあよろしくお願いします…?」
「なにそれー有里が畏まってる!」
彼女に笑われながら退院したらまたルームシェアに戻る事を決めた、親と不仲なのに記憶喪失となったら親に見捨てられるかもしれない、それなら事情を知っている彼女と暮らした方がいいと思ったから。
「そうだ、貴方の名前も覚えてないから教えてほしいんだけど…」
そう言うと彼女は少し困ったように何も言わなかった、少しの沈黙の後に
「有里の記憶を取り戻したいから私の名前当ててみて!」
と、彼女は言い出した。
普通は名乗るものでは…?と思ったけど彼女なりに私の記憶を取り戻す方法を考えてくれているのだろう。
そんな訳で思い出すように彼女の顔をじっと見つめる、長い細い黒髪が肩甲骨辺りまであり目が大きく可愛らしい印象の女の子。肌がとても綺麗ですらりとした綺麗な体型。こんな可愛い友達いたんだ…と自分の容姿すら忘れているのに呑気な事を思ってしまう程可愛い女の子だった。
彼女の大きな瞳に私が映る、ぼんやりと見える頭に包帯を巻かれているミイラのような格好に見える。
「雫…」
「え?」
私が小さく呟くと聞き取れなかったのか聞き返してくる彼女にはっきりと「雫」と答える。
彼女は大きな目をより開き感動したように私の手を取る。
「そうだよ!私の名前は雫!有里思い出してくれたんだね!」
手を取られ、まるでプロポーズと言わんばかりの迫力でキラキラと目を輝かせている彼女を見る。
よかった、彼女の名前を無事思い出せたみたいだ。
彼女は雫という名前なのか…可愛い名前だなと思いながら思い出せた事に私まで嬉しく起きてから初めて頬が緩む。
「有里笑ったー!私そんな変な顔してた?」
雫は自分の行動で私が笑ったと思ったらしい。
「違うよ、雫の名前思い出せて嬉しいのと雫がまるで自分のように喜んでくれるのが嬉しくて」
そう、嬉しかったのだ、雫が私の事なのに一つ一つに対して素直に表情に出してくれるのが、それを見るととても安心する。
「当たり前じゃん!私たち親友でしょっ」
ドンッと雫は自分の胸を叩き何故か自慢げに言う。
私たちは親友なのか、そうだよね普通そこまで仲良くない人とルームシェアなんかしないよね。
「起きて初めて会った友達が雫でよかった」
そう心の底から思える程雫と私は仲が良かったのだろう。
「そうだよー有里が事故に会ったって知って気が気じゃなかったんだからー」
「あはは、ごめんって、そんな怒らないで」
2人で笑いあっている時に看護師さんが来てこれからの事を教えてくれる。
記憶以外に問題はないので明日には退院出来るらしい、記憶は戻るかは分からないけど何かのきっかけで思い出す可能性もあるので気を落とさないよう言われた。あと雫ははしゃぎ過ぎだと怒られていて思わず笑ってしまった。
面会時間が終わりを向かえる、看護師さんに言われ雫は「また明日ね!」と手を振って帰っていく、私も手を振り返し別れを告げる。
明日退院の時間に雫が来てくれる予定だ。
退院してからを考えると不安と期待が混じり何とも言えない気持ちになった。
その気持ちを消すように退院する準備をしてベッドの中で目を瞑る。
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