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何か言わないと、雫には何も思っていないかもだけど私としては無言なのが少し辛かった。
「雫はさ、私の記憶取り戻すお手伝いしてくれるんだよね?」
「そうだよー有里の記憶戻るように手伝うよ」
そういう雫は私を安心させるようにニコッと歯を見せて笑う、こんな笑い方も可愛いななんて思いながら私は雫を見る。
「私はどんな人だったの」
自分で言うのも変だが1番身近に居た人からどんな風だったか聞くのは1番手っ取り早いと思ったから。
「そうだなー、優しい人だよ正義感が強くてさ」
そう静かに睫毛を下ろす、いつの間にか雫が窓を開けたからなのかそっと優しい風が流れ込んでくる。
ふわっと来た風が雫の黒髪を撫でる。
私の雫ほど長くない黒髪はばさっと飛ばしていく。
雫だけがこの世界にとても馴染んでいるようなそんな感覚がした。
「正義感とかないでしょ、少なくても今の私は正義感なんてないし」
「まあそう焦らずさ、気楽に取り戻していこう」
雫はどこまでも優しく言う。その言葉で私は何度も救われる。
「ところで今日何日?高校で親と揉めたって事はもう高校始まってる?」
高校が始まっていたら覚えていないクラスメイトたちを心配や同情などされる、記憶喪失なんて可哀想と比喩られるのがオチだ、それは嫌だな…と内心考える。
「今日は3月22日、まだ高校の入学式すら始まってないよ、だからそんな顔しないで」
雫は私の心を読んだかのように言う、まだ高校始まってないんだ。
「さっき言ったでしょ?ルームシェアしてからそんなに時間経ってないって」
ほらっとカレンダーを指さした雫、そのカレンダーには19日にルームシェア開始!とピンクのペンで可愛く書かれていた。
そんな短時間で事故に合うとは…自分でも不幸だなとは思う。
「ごめんね、新しい所に引っ越したばっかりに事故に合って記憶無くすなんて」
とにかく雫には申し訳なくなる、不運なのは私なのかそれとも雫なのか。
「大丈夫だよ、有里が生きててよかった」
それ以外いらないとでも言うようにしっかりと私の瞳を見て雫は言う、重いその言葉を理解するのに私は数秒掛かった。私が生きててよかった、その言葉がどうしても胸に刺さって抜けなくて視界にいるはずの雫の輪郭がぼやけていく。ぽたっと視界の邪魔をしていた涙が頬を伝った、泣いていたのだ。
胸に刺さったその言葉に私はただ泣くしか出来なかった。私は生きていてもいい人だと頭では分かっている出来事も言葉にされないと実感が無くなってしまうのだ。
「有里、大丈夫だよ、ほら泣かないで」
言葉が出てこない私に雫はティッシュを差し出して慰める。雫からティッシュを貰い思いっきり涙を拭こうと目を擦る。少し痛む目元をゆっくりと雫に向けぎこちなく笑う。
「ありがとう、雫」
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