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そうは言っても、上手に描けるか否かは、また別の話である。
パターンアートをひとしきり楽しんだ後は、植物のイラストに挑戦してみた。
今度のお手本は、リアルだ。
庭に咲いていたタンポポを失敬して、私は早速シャープペンを握った。
・・・が、リアルな花を手本に描こうとすると、見る角度が違うだけで、別の姿になった。
なんということだ、リアルは、立体だったのだ!
平面しか描けない私にとって、この当たり前が、高い障壁のように立ち塞がる。野に咲く陽気なタンポポさんが、私の目にはエベレストの頂上に咲き誇る幻の花のようにすら思えた。
「はっ、ダメだ、しおれてしまう!」
タンポポさんは、更に過酷な現実を私に見せつけた。
そう、時間という存在だ!
力強く咲いていたタンポポさんは、花をしぼめて、くったりとしてしまった。一緒に積むことが出来なかった葉などは、無残にしなびれてしまっている。
慌てて水を入れた容器に浸してみたが、今度は、雑に摘み取ったせいで、水に浸した茎がくるりと丸まった。
「あぁっ!なんてこった」
もう、絵を描くどころではない。
私が摘まなければ、きっと綿毛を飛ばして子孫を残したであろうタンポポさんは、絵に描かれるでもなく、力尽きた。
さようなら、タンポポ先生。
そして、私は、写真を撮ることを覚えたのである。
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