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「それは、夜遅くなるってこと?」
「いや、亜門さんの帰る頃にはわたしも帰るつもりです」
首を振って答えると、彼は目を細めて、ふうん、と納得したようにお椀を置いた。
「なら律儀なことだね、俺が帰ってくる前にオマエが家にいれば、ばれないだろうに」
まるで悪事を勧めるようなことを言う亜門さんに、わたしはちょっと、口調を強めた。
「でもわたし、亜門さんに隠し事したくないんです」
「なるほど、正直な心をお持ちなようで」
「嫌味じゃないですよ?」
「そういうのって、受け取り手の問題だから」
隠し事をしている彼は、嫌味を言われたと受け取ったらしい。まあ、嫌味を言ったのは間違いない。
だって、ほら、なんか。
少しくらい、引き止められるかなって自惚れてたんだもん。
興味を持っていたのか、単なる話題のひとつとしてなのか分からないけど、亜門さんがいろいろ訊いてくれた。
「誰と行くの」
「アイちゃんっていう大学の友だちです、とても信用ができる子です」
「百音に人を見る目が備わってるとは思えないけど」
「何をおっしゃる?!わたしは、堂前亜門と婚約した女ですよ?!」
「見る目ない証拠だね」
自虐する亜門さんが珍しくて、わたしは笑ってしまう。
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