ミーイズム

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ミーイズム

 アルフレド・ベネディクト・ベラスコとはどのような人物か。  彼は、とにかく掴めない人間である。  先日の話だ。朝起きると彼は、私の部屋の前で待っていた。何をするでもない。ただ待っていたのだ。私が何を聞いても、別に、しか言わない。食事を取るときも必ず目の前に座り、じっと私を見ている。トイレに立とうがお風呂場に向かおうが当然のようについてきて、就寝する際にはなんと一緒に部屋にまで入ってこようとした。もちろん寝室への侵入は押しとどめたが、それが一週間も続いたのである。当然のように私は気味悪がったが、いくら拒絶しようと彼は私の側から離れなかった。  その謎の行動の理由が分かったのは一週間後である。彼がまとめた最新の論文のタイトルは"魔女の生態調査"。いったい私の日常をどのように書き連ねれば、論文なんかにまとめられると思ったのか。内容が非常に気になったが、論文を盗み見ても何語で書かれているかすら分からなかった。どうでも良いが、ベネディクトは五ヶ国語と二地方語が堪能らしい。国外どころか屋敷すら出ない人間のくせに、実に無駄な特技である。  ともかく、ちょっと腹が立ったので、私も彼の観察日記を付けることにした。  何の変哲も無い私の日常をつづった"魔女の生態調査"よりも、多くの人々に興味をもたれることは間違いない。なんとか彼を味方につけたいと画策している男たちは大勢いるし、彼の心を掴み玉の輿に乗りたいと奮闘している女性たちは掃いて捨てるほどいるのだ。そんな人間たちにとって、謎に包まれた彼の私生活を垣間見れる本著は垂涎の的であろう。大ヒット間違いなしである。  と言うわけで、彼の観察日記を次に記す。  ベネディクトなどに興味のある奇特な紳士淑女の皆さま。とくとごらんあれ。
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