モカシンの朝。

1/74
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/74ページ
路地裏に止めた原付のシートに座りタバコを吹かしながら、いつものように空を見上げる。 屋根と屋根の隙間から見える細い空は、いつもと変わらず曇っている。 ここから晴れた空を見上げた記憶がない。 俺は冬の尖った大気をタバコの煙と一緒に大きく吸い込む。 そしてその曇った空に向かって吐き出す。 溜まった疲れを取るように両足を伸ばすと、全粒粉で真っ白になったスニーカーが視線に入った。 ちっ…。 俺はそのスニーカーの粉を手で払ったが、小麦粉が入り込み、白くなった表面は変わらなかった。 咥えタバコでカーゴパンツのポケットから携帯灰皿を取り出そうとしていると、店の裏口のドアが開いた。 「ここに居たか」 そう言って缶コーヒーを片手に神崎さんが出てきた。 そして俺の横に来てしゃがんだ。 「まだタバコ吸ってるのか」 神崎さんは俺を見上げる様に見て言う。
/74ページ

最初のコメントを投稿しよう!