21話「マジでマトモな奴がいねぇんだが」

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21話「マジでマトモな奴がいねぇんだが」

 えぇと。改めて確認しようか。  椅子に優雅に腰掛けて紅茶を飲んでいるジュレさん。  入口で殺気をばらまいているアル。  俺にしがみついて離れようとしないサウレ。  吹っ飛ばされてひしゃげたドアの破片。  そして逃げ場もなく、そもそも動けやしない俺。  うん。どうしてこうなった。 「あーっと。とりあえずサウレ、少し離れようか」 「……やだ」 「いやマジで恐怖が膝に来てるから離れてほしいんだが」  カタカタ言ってるからな?  て言うか鳥肌すげぇからな? 「……ちっ」 「なぁおい、今舌打ちしたか?」 「……気のせい」  ぱっと呆気なく離れるサウレ。気になるけど、とりあえず置いておくとして。。 「そんで、命の恩人ってのは何だ? 全く身に覚えがないんだけど」 「……三年前。私はアスーラに居た」 「は? 港町アスーラか?」 「……そう。その日、私はアスーラのダンジョンを探索していた」  アスーラのダンジョン……?  あぁ、何か昔行ったな。洞窟みたいな所だ。  ゴブリンがウジャウジャ居たのと、最深部にデカい斧を持ったミノタウロスが居たのを覚えている。  あの時も地味に死にかけたなー。 「……足を怪我して動けない私を、あなたが助けてくれた」 「は? いや、覚えがないんだけど」  あの時サウレを助けた覚えなんて……いや、待てよ?  あ、分かった。そういやボロ布着てたチビを救助した覚えがあるわ。  たしかに足怪我してたから背負ってアスーラまで運んだけど。 「いや待て、あの時のチビは五歳くらいだったぞ?」 「……私の種族(サキュバス)は一定の大きさになるまで成長が早い。その後はゆっくり成長していく」 「そうなの? え、じゃあお前、あの時のチビなのか?」 「……そう。子作りできるようになった。つまり据え膳」 「そんな趣味はねぇよ!?」  少し大きくはなってるけどお前まだ小せぇだろ!?  俺を社会的に殺す気か!? 「……私はあの時のお礼をしたい。セイ……私を貰ってほしい」 「あーうん、よく分かった。けど、そういうのはやめれ。礼の言葉で十分だ」 「……言葉じゃ足りない。私の全てをセイに捧げる」 「あーもーお前はお前でめんどくせぇな!」  いいからその(狂信的な)目で俺を見るな!  そして抱きつくな! ルミィとは違った意味で怖ぇわお前! 「あの……そろそろよろしいですか?」  額を抑えてひっぺがそうとしてるところでジュレさんに声をかけられた。 「え? あ、すまん。なんだ?」 「とりあえず、この方たちを紹介してほしいのですけれど」 「あぁ、この小さいのがサウレ(狂信者)、そっちのやべぇ奴がアル(サイコパス)。旅の仲間ってところだ」 「初めまして。殺していいですか?」 「良くねぇよ。お前はマジで黙ってろ」 「……セイの敵は容赦しない」 「お前も黙ってろ。てかいい加減離れろ!」  ほんとブレねぇなこいつら。  もう少し穏やかに話せないもんかね。 「あら? アルさん……もしかして、アルテミス・オリオーンさんでは?」 「はい、そうですけど……私の事知ってるんですか?」 「前にダンスパーティーの時にお屋敷でお見かけしましたね」 「あぁ、そう言えば見覚えがあります!」  ……おい。今、オリオーンとか聞こえたんだが  それって確か、ユークリア王国の中でもかなり有力な貴族じゃなかったか?  たしか戦争で数々の武勇を成して一代で貴族になったところだっけか。 「なぁアル、没落しそうだから家出したって聞いてたんだけど……オリオーンが没落する訳なくね?」 「それについてはですね! うちは子どもが私だけなんで、婚約者が逃げた時点で血筋が途絶えるのが確定しました!」 「あぁ……うん、確かにそうだな」  一度婚約破棄された令嬢のところに婿入りしたがる奴なんてそう居ないからなぁ。  そりゃ相手をぶち殺したくもなるわ。 「アルテミスさん、家名を捨てられたのですか?」 「はい! 今はただの冒険者(復讐鬼)です!」  おい、なんかいま物騒な単語が聞こえた気がしたんだが。 「まぁ。それでしたら私もご一緒して構いませんか? 是非お手伝いしたいです」 「おい待て変態。これ以上うちのパーティーの変人度を上げるな」 「変態だなんて……私は人が焦ったり苦しんだりするのを見ていたら興奮してしまうだけですよ?」 「うっわ、そっちの変態だったか……」  ただの痴女かと思ったわ。  いや、何にせよタチ悪ぃけど。 「ちなみに、苛められるのも好きですね」  両方いけるのかよ。無敵かアンタ。 「ちなみにセイさんはどちらがお好みですか?」 「答える気は無いし、パーティーに加える気も無いからなー」 「あら……私いま、焦らされてます?」 「違ぇよ変態。いいから早くギルド行けって。そっちでパーティー探しゃいいだろ」 「だってここ以上のパーティーなんて、そうそう無いと思いますし」  は? どういう意味だ? 「だって数々の武勇を成して貴族となったオリオーン家のアルテミスさんに『龍の牙』のセイさん、そちらのサウレさんも熟練の冒険者ですよね?」  ……あー、なるほど。外から見たらそうなるのか。  確かに実情を知らなかったらそうなるわな。 「それに、私もそこそこ強いですよ? 戦闘ならサポートから殲滅まで何でもお任せください」 「……まぁそこに疑いは無いけど、そっちに何かメリットあんのか?」 「えぇまぁ。私、自分で言うのもなんですが……常識を知らないので。私一人ではまともに生活出来ません」 「あぁ、なるほどなー」  屋台で金貨出すくらいだからな、この人。  元々が貴族だってんなら分からんでもないけど。 「うーん……でもなぁ……」  真面目な話、これ以上パーティーに女を増やしたくないんだが。  慣れてきたとは言え、アルとサウレだけでもそこそこ怖いからなー。 「それに私、お金だけはたくさんあるので魔石も買い放題ですよ?」  にこりと微笑みながら、ジュレさんは呟くようにそう言った。  ……ほほう。またいきなり踏み込んだ話をしてきたな。  こいつ、俺が作る特性玉が貴重な上級魔石を使うって知ってるのか? 『龍の牙』の奴ら以外、誰も知らないはずなんだが。 「なんでいま、魔石の話を?」 「あら。だってセイさんには魔石が必要でしょう? 『龍の牙』を抜けたのなら資金繰りも苦しいのでは?」 「……おーけぃ認めよう。確かに魔石は必要だ。けど、なんで知ってんだ?」 「『雪姫騎士団』の諜報能力はとても高いという事ですね。噂を広めることも得意らしいですよ?」 「なぁるほど? そいつはまた、厄介な話だな」  俺は戦いたくない。どっかの田舎でのんびり暮らしていたい。出来れば冒険者なんか辞めて農家にでもなりたいくらいだ。  だが、()()()()()()()()()。  サポートしか出来ないとは言え、下手な噂を流されたらまた前線に放り込まれる。  つーか下手したら『竜の牙』の皆に居場所がバレる。  つまりは、なんだ。遠回しの脅迫だな、これ。  ただの常識外れのお嬢様かと思いきや、中々どうして交渉ってもんを分かってやがる。  さすがは一流冒険者ってところかね? 「あーもー……なぁんでこう、変なやつばっかり集まるかなー」 「両手に花束ですね。選びたい放題じゃないですか」 「選択肢がサイコパスに狂信者に変態だけどな。まともな奴がいやしねぇ」 「ふふ。そのうち慣れますよ、リーダー?」 「仕方ないな……とりあえず王都までよろしくな、ジュレ」 「末永くよろしくお願い致します」  苦笑いを浮かべ、嫌々ながら握手を交わす。  けどまぁ、こういう奴は嫌いじゃない。  それに多分。こいつ、俺に言い訳を作らせるために魔石の話を持ち出しやがったし。  ドラゴンを一人で倒せるほどに戦闘力が高い奴だ。俺を暴力で脅すことも出来ただろう。  それをしなかったって事は、こちらと話し合いをしたいと思ったって事だ。  そこにあるのは、信頼を得たいという心。  しかし、自分の要求を飲ませる為に切れる手札は躊躇(ためら)いなく使ってくる図太さを持ち合わせている。  芯が強い。それに、清いだけでもない。敵になれば厄介だが、味方なら頼もしいタイプだ。  これならまぁ、アルやサウレに足りない部分を補ってもらえそうだし。  そんでぶっちゃけ、俺が戦闘しなくて済む。  そこ点はマジでありがたい。  その為なら多少の変態くらいは受け入れよう。 「それでは親睦を深める為に、みんなでちょっと大人の遊びをしましょうか。丁度良いことにベッドもありますし」  前言撤回。ダメだこいつ、やっぱりただの変態だわ。 「……だめ。最初は私。ジュレは後で」 「あら、構いませんよ。お手伝いします」 「楽しいお祭り(殺戮)ですかっ!?」 「もうさ、お前ら、ちょっと自制しろって。マジで」  こうして、おかしな仲間がまた一人増えたのだった。  マジでマトモな奴がいねぇんだが。
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