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豆球の明かりが仄かに点る居室。
小さな小さな血痕が、敷き布団一面にびっしり付着しています。
布団をはね除けて冷たいリノリウムの床に寝転がっている、ふみさん。
私を見上げ、ふみさんは、へへっと笑い、白い腕を伸ばします。
「びっくりしたでしょ」
息が止まるかと思いました。卒倒するかと思いました。
真夜中です。もうひとりの夜勤者は、仮眠中です。
私は思考をフル回転させ、今やるべきことを考えました。
まず、居室の電気を明るくします。他に異常がないか、確認します。
傷口の有無も確認です。
物品が壊れるようなことはありませんでした。
ふみさんの肘に痣と創傷があり、そこから出血しています。
私は急いでナース室に行き、絆創膏とガーゼ、テープを拝借しました。
創傷を絆創膏で保護し、肘全体をガーゼでぐるぐる巻き、テープで留めます。傷口を増やさないためのクッション材代わりです。
シーツも交換し、ふみさんは布団の中で寝て頂きます。
「まだ夜中なので、寝ましょうね」
耳の遠いふみさんの耳元でお話しすると、ふみさんはつぶらな瞳を輝かせて、うん、と頷きました。
「ありがとね」
両手を合わせて拝まれる、ふみさん。この笑顔に何度騙されたことか。
私は血痕だらけのシーツを処理し、事の子細を夜勤記録に記しました。
その後の仮眠時間。神経が興奮しているのが、自分でもわかりました。刑事ドラマで事件現場を見た新人が体調を崩すのが、よくわかりました。血を見ると興奮してしまうものですね。
興奮した神経を落ち着かせようとして、ふと思いました。
ちょ待てよ。これ、事故報告書では。
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