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「ふみさんのアームカバー、良いね。うちにも使わないのがあるから、持ってこようかな」
「アームカバーが増えたから、洗濯できて助かるよ」
アームカバーを編んで寄付したことは、職員からも好感触でした。
ふみさんは、アームカバーを抱えて、うとうと、ねむねむ。布団にくるまっても、車椅子に座っても、頭をゆらゆらさせながら夢見心地です。起きている時間よりも、寝ている時間が多くなりました。
職員として、覚悟しなくてはならないかもしれません。
入所時のふみさんは、日中に起きて夜は眠る、しっかりした時間感覚のかたでした。職員が介助しながらも自分の足で歩くことができて、トイレを使うこともできました。
ところが3年前、インフルエンザに感染し、命に別状はなかったものの、日常生活動作が劇的に低下してしまいました。
常時車椅子で、24時間おむつ着用。昼夜問わず眠り、食事も摂れない日が続きました。
「令和は迎えられないかもしれないね」
そう言われていた矢先、ふみさんは欧米かというテンションで「ハーイ!」と目覚め、ご飯をもりもり食べるようになりました。
ふみさん、完全復活。2日間起きて2日間眠るサイクルになりましたが、人間の生命力を目の当たりにしました。
あれから3年、ふみさんは生きました。
覚悟することを考え始めて数日後、ふみさんは天寿を全うしました。
大変ではありました。
歩行介助、排泄介助、夜間の巡視、止血、会話での対応……ふみさんだけではありません。皆様それぞれに大変さはあります。
ふとした瞬間に気づくことがあります。大変だった仕事の中には、やりがいや思い出として昇華されるものがあることに。我々介護職員は、そのやりがいや思い出に生かされていることに。
ふみさんのお荷物は、ご家族様が引き取って行かれましたが、アームカバーはスタッフルームに残されています。
ご家族様が引き取りを拒否されたのでしょうか。それとも、他のご利用者様にも使えるように保管してしるのでしょうか。ただ捨てるのがもったいなかったのかもしれません。
スタッフルームのアームカバーが視界に入るたびに、ふみさんのことを思い出し、今目の前のご利用者様のことも頑張ろうと思えます。
ふみさん、大変お世話になりました。
介護させてくれて、ありがとね。
【「ありがとね」完】
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