誰にも見られていない桜が一番美しい

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 六つで親元から引き離され、ここで呼ばれる名前まで変わってしまい、泣いていた私を慰めてくれたのが、私たちの出会いだった。 ──── 「いやだ、おらの名は(はつ)だ。なんでして皆おらのことを『かすみ』って呼ぶんだ?」  私と二つしか違わない歌翁(かおう)様は私の涙を袖で拭って言った。 「ここでは女子(おなご)は皆名前を変える」 「嫌だ、おらは『(はつ)』だ」  ぐずる私を歌翁(かおう)様は優しく抱きしめた。 「では、二人きりの時俺だけは『(はつ)』と呼ぶ。それはどうだ?」  少しだけ涙が引っ込んだ私に歌翁(かおう)様は続ける。 「俺のことも「かお」と呼んでくれ、(はつ)」 「……かお」  かおは、嬉しそうに笑った。 ────  それから月日が経ち、私たちの関係は変化した。  かおのことはいつしか「かおくん」と君付で呼ぶようになり、私は引入新造(ひっこみしんぞう)(将来遊女になるエリートの禿)として住むところが変わり、かおくんと会えなくなった。
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