0人が本棚に入れています
本棚に追加
六つで親元から引き離され、ここで呼ばれる名前まで変わってしまい、泣いていた私を慰めてくれたのが、私たちの出会いだった。
────
「いやだ、おらの名は初だ。なんでして皆おらのことを『かすみ』って呼ぶんだ?」
私と二つしか違わない歌翁様は私の涙を袖で拭って言った。
「ここでは女子は皆名前を変える」
「嫌だ、おらは『初』だ」
ぐずる私を歌翁様は優しく抱きしめた。
「では、二人きりの時俺だけは『初』と呼ぶ。それはどうだ?」
少しだけ涙が引っ込んだ私に歌翁様は続ける。
「俺のことも「かお」と呼んでくれ、初」
「……かお」
かおは、嬉しそうに笑った。
────
それから月日が経ち、私たちの関係は変化した。
かおのことはいつしか「かおくん」と君付で呼ぶようになり、私は引入新造(将来遊女になるエリートの禿)として住むところが変わり、かおくんと会えなくなった。
最初のコメントを投稿しよう!