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あの妓の花、だれ咲かす
あの妓の花、だれが摘む
さあさあ、さあさあ、どのお大臣?
禿(吉原に住む童女)の歌声が遠くで聞こえる。
今日の吉原から見る空は、嫉妬するほど混じり気のない青だった。
「いよいよ今宵でありんすな、櫻花」
窓から振り返ると、姉女郎の菊江花魁がそこにいた。
声は嬉しそうに、でも、少し悲しみの混じった瞳で私を見つめる。
菊江姉様の横にいる楼主(廓の主人)は天にも昇るような顔でニコニコと笑っている。
「櫻花、今夜からお前は徒名楼で咲く花になるんだよ」
「花、でありんすか?」
「そう。今日のために私はお前を育てたんだ。いいかい、櫻花。お前から出る色香で男たちを酔わせ、吉原で咲き続けなさい」
絶望の黒色と、これから先の生き地獄の濁った赤い色が心の中に渦巻く。
悲しそうな姉さんと、幸せそうな楼主。
私は、曖昧に微笑むしか答えを知らない。
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