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「ご主人が、万引きしました」
事務所に駆け付けると、夫は店長の向かい側の椅子に座らされ、叱られた仔犬のようにシュンとしている。
その背後にはガタイの良い男性社員の剛力さんが腕組みして立っている。
「ご主人が、お会計の済んでいないコレをポケットに入れて店から出て行ったんだよ。それで剛力クンが呼び止めようとしたら、ご主人が走って逃げて……」
私の上司である優男の植木店長が、言いにくそうに説明してくれた。
机の上には小さなチョコレート菓子。子ども向けのおまけ付きのお菓子だ。
「そうなの?」
夫に確認すると、彼は上目遣いのまま無言で頷いた。
またか……。これまで私がどれほど誠実に努力を重ねても、必死の苦労を重ねても、夫はそれらを一瞬でぶち壊すようなことばかりしてきた。
今度は万引きか……。しかも食玩。情けなくて涙が一粒こぼれてしまった。
すると夫は赤鬼の形相で、
「泣けば済むとでも思ってんのかッ!」
私も店長も剛力さんもポカーン。謎のブチ切れ、略して謎切れだ。
私を恫喝し終えた夫は、なぜか「フンッ」と勝ち誇ったようなすまし顔をしている。
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