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それから……多分、一時間くらい経ったんだと思う。誰かが俺の部屋のドアを開ける。その誰かなんて、分かりきっていた。
「よぉ、気持ち良かったか?」
「っ!」
その言葉に、俺の中で我慢していた何かが弾け飛んだ。
立ち上がり、猛然と走り寄り胸倉を掴む。それでも御影は動じる事なく、薄く笑みを浮かべる。酷く自嘲気味に。
「あーぁ、その手どうして綺麗にしとかないかな? 匂いまでしてるし。えっろ」
「御影ぇ!」
「あいつね、そんないいもんじゃないよ? 俺の他にも相手いるみたいだし、本命作んないでセフレばっか。テクも単調だし。あっ、それは千景も分かってるか」
「っ!」
そんな事も知りたくなかった。少なくとも、こいつの口からは。
ズルズルと力が抜ける。ひたすら泣きたくなる。俺は床にへたり込んだまま顔も上げられない。そんな俺に合わせてしゃがみ込んだ御影が、ギュッと俺を抱きしめた。
「ほら、俺にしとけよ千景。俺ならお前の事、全部慰めてやれる。俺ならお前のイイところ、手に取るように分かる。お前も分かるだろ?」
「っ!」
耳元に吹き込まれる言葉にゾクゾクする。舌がスルリと俺の耳殻を舐める。その感覚に再び体の芯が痺れていく。思わず息が漏れた。
「ははっ、気持ちいいの? 共感覚だけで随分開発されたんだね。エロいよ、千景」
「お前が!」
「分かってるよ。だから、俺が責任取ってやるって」
「……は?」
言っている意味が飲み込めず、俺は御影を見た。薄く笑みを浮かべる彼は冗談を言っている様子はない。そしてすごく自然にキスをした。
「付き合おうぜ、千景」
「バカ言うなよ! 大体、今日の相手だって!」
「はぁ? 相手もセフレなんだから何の問題もねぇよ。俺も相手も体だけだし」
「だからって!」
なんでそうなるんだ。
御影は笑う。そして本当に愛しい人にするようにキスをする。舌を差し入れ、乱れた服の間から手を差し入れ、痛いくらい感じていた乳首を捏ねる。それだけで俺は体が痺れ声が上がり、あっという間に硬くなる。
それを分かって、更に御影は俺の股間に表から触れる。グチャグチャなままの下着ごと撫で回されるだけで俺はまた大きくしてしまう。息が乱れ、快楽に支配され始める。
でもそれは御影も同じようで、何もしていないのに前を大きくし息を乱した。
「ははっ、マジ気持ちいい。童貞処女だってのに千景、すごい変態じゃん」
「ちが! こんな……んぁあ!」
「最高じゃん。こりゃもう、セックス含めてお前と付き合うしかないわ」
「なんで、っ! そうなるんだよ!」
「責任取るって事だって。俺のせいだろ? それに俺達最高の相性なのは間違いない。俺は千景の事を感じられるし、千景は俺の事感じられる」
「だからって!」
兄弟で、双子で、そんな爛れた関係が許されると思わない。何よりこいつは散々俺の好きな人を奪い取ってきた。俺が何もできないのをいい事に、こいつが!
なのに、どうして切ない気持ちになるんだよ。悔しいのに、俺は酷く苦しくて辛い。
「お前は俺の事なんて好きじゃないだろうが」
「なんで?」
「散々他の奴とヤッておいて! 俺の事、どう思ってそんな事言ってるんだよ」
俺はセフレとか、その場だけの関係とか嫌だ。気持ちが欲しい。俯いて動けない俺に、手を伸ばしてくれる誰かが欲しいんだ。
御影が笑う、自嘲気味に。そして優しいキスをする。やたらと疼くものじゃなくて、驚くくらい優しいやつだ。
「お前がいいんだよ、千景」
「何でだよ。ヤリすぎて相手されなくなったのかよ」
「違うって。他の誰でもなく、お前がいいんだ。昔から俺が好きなのはお前だけなんだ。お前の好きな奴に嫉妬して、奪い取るくらいには好きだ」
「…………へ?」
何? 嫉妬? 俺の好きな人を奪い取る??
訳が分からない。そのくらい、御影の愛情は歪んでいる。でも嘘がないのは不思議と伝わる。ドキドキした気持ちが、俺にも響く。
俺だって御影が好きだった。いつもグズの俺に手を差し伸べてくれたのは、御影だったから。
そういえば、俺の好きになる相手はどこか御影に似ている。話し方や仕草、視線や、笑い方や。
何これ。俺も、御影の事無自覚で好きだったわけ?
「間抜け面。そして気付よ。俺達、生れる前から一緒だぞ」
「いや、だって」
どんな顔しろってんだよ。
焦る俺に、もう一度触れるだけのキスをする御影が自嘲気味に笑う。
「俺は直ぐに分かったよ。千景が好きになる奴ってどっか俺に似てる。最悪でしょ、そんなの。俺いんのに俺の代用と付き合うのかよって思ったら腹立つだろ」
「そんなつもりなかったんだ!」
「じゃあ、今から自覚して」
また触れる。柔らかい唇が重なるだけで俺はどうしようもなく苦しい。まだ、自分の事が信じられないままだ。
「俺もお前を選びたい。消去法じゃないぜ? 俺は昔からお前に焦がれていたし、お前だけを愛してたんだ。ビッチでも心はピュアなままなんだから」
「それ、最低じゃん」
「じゃ、約束。千景が俺と付き合ってくれるなら、今日から俺は千景だけのもの」
その言葉は酷く俺に響く。御影が俺のものになる。それを考えると体の奥が痺れて熱くなる。そしてこれはきっと御影に知られている。ニッと笑った事が証拠だ。
「決まりな」
「……くそ」
やっぱこの共感覚、どうにかならないものだろうか。
END
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