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古びた木造アパートの階段を上がり、俺は進む。手にはコンビニのおにぎりと飲み物だけを下げて向かうのは角部屋。鍵を開けて入る狭く薄暗い6畳のワンルームが俺の秘密基地だ。
フローリングの床には脱ぎっぱなしの服や本、ペットボトルが転がる。開けたことのない薄いカーテンから光りが透けて部屋を陰鬱に明るくしている。
その明かりの下、万年床の布団の上に彼はいる。
ふわふわの柔らかな髪に薄汚れてしまった顔。猿轡をする彼の目には恐怖がありありと見える。涙の跡は幾筋も乾き尚も大きく見開かれる。蒼白とする表情、声にならない拒絶の声。ボロボロになった白いトレーナーも伸びて汚れ、所々が裂けている。
短いズボンから覗く生足。だがその足首には不釣り合いな手錠がつけられ、長い鎖のもう片方は重たい家具の足に繋がれていた。
「やぁ、ただいま。いい子でお留守番できたかな?」
にたりと笑い、俺は言う。抑揚のない声で、精一杯の笑みと愛情を乗せて。
なのに彼は拒絶するように首を横に振る。後退ったって直ぐに壁に背中がつくというのに。
「待ってよ、酷いな。俺達、もう恋人だろ?」
「んぅぅぅ!」
これも拒絶だろう。俺は段々腹が立って手を伸ばし、彼のトレーナーを乱暴にまくり上げた。
「!」
ビクリと体を硬くして震える彼のトレーナーの下には昨夜愛し合った痕跡がいくつも残っている。
「ほら、恋人だ。こんなに沢山愛し合った跡が残っているじゃないか。君も気持ち良さそうにしていただろ? 何度もイッて、気持ち良かっただろ?」
「んぅぅ!」
「乳首だってもう、こんなに卑猥な色と形をしている。ぷっくりと腫れて大きくて。ここ触られるの、好きだろ?」
「うっ……んぅぅ」
悲しげに眉を寄せた彼の大きな目から涙がこぼれ落ちる。まだ幼さを残す彼は絶望を色濃くしながらも悟っているだろう。俺がいなければ生きていけないのだと。
俺はニヤリと笑い、流れた涙をゆっくりと舐め取る。彼はそれにもガクガクと震え、時折嘔吐くように体を震わせた。
「いいね、好きだよ、そういうの」
恐怖に染まった彼も可愛い。にも関わらずもうどこにも行けない。可哀想で、哀れで、弱いこの子が大好きだ。
「どうしよう、ムラムラしてきた。ご飯と思ったけれど先にこっちかな」
「うぅぅぅぅ!」
「ほら、大人しくして。お腹空いてるでしょ? 俺の沢山、飲ませてあげるからね」
暴れるけれどもうそれほど抵抗する力は残っていない。俺は猿轡をとってやり、自分の前をあけようとした。
「誰か! 誰か助けてぇぇぇ!」
悲鳴のような声が響いたその時、背後で乱暴にドアが開きスーツ姿に拳銃を突きつけた男が土足で入り込んで来る。
俺は咄嗟に少年を掴まえたが、その前に銃声が轟俺の足に衝撃が走る。パン! という弾ける感覚の後、赤い色が飛び散った。
『はい、カット!!』
そこで、息を詰めるような緊張感が霧散して俺もほっと息をついた。
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