【鷹取はるなさん⑫】小さな贈り物

5/6
前へ
/68ページ
次へ
【小さな贈り物・裏】  勝木稔。その子の存在を知ったのは随分と前だった。 「おい、羽野。暇か?」 「暇ではありませんが。どうしました?」  兄貴分だったその人は少しだらしない人ではあった。とはいえ仕事は出来る人だ。任侠の世界なんて裏にいながらもやってこられるのは、この人が何かと面倒を見ていてくれたからだ。 「実はよぉ、俺ガキがいてな」 「はぁ?」  突拍子のない話に片眉を上げると、兄貴はゲラゲラ笑った後で真剣な顔をして「マジで」という。  なんでもまだ若い頃に、付き合っていた彼女に産ませたらしい。結婚はしていなくて、そのうち分かれたらしい。 「でもよぉ、気になって時々様子見に行ってたんだわ、こっそり。あいつ、誰に似たんだか鈍くさくてよ、母親に逃げられちまってな」 「ちょっと、親としての責任果たしてくださいよ」 「ばーか、この世界だぜ? 引き取るわけにもいかんだろうよ」  そう言われるとなんとも答えに窮するが。  兄貴は懐かしそうに目を細める。そして、いつもの煙草に火をつけた。 「俺になんかあったら、頼んでいいか」 「え?」  マジマジと見てしまう。でも、とても冗談を言っているようには見えなかった。 「何か、あるんですか?」 「ん? いや? でも、なんていうかな……予感? あっ、俺そろそろ死ぬかもなっていう、そういうの」 「縁起でもないのでやめてください」 「まぁ、そうなんだけどよ。でもよぉ、これが俺の最後の心残りなんだわ。だからって誰でもいいわけでもない。その点お前は性格穏やかで面倒見もいいし、見た目厳つくないからいいかと思ってな」 「兄貴!」 「……頼むな」  答えを聞かないまま吸いかけの煙草を足で消した兄貴は、肩をトントンと叩いて行ってしまった。  兄貴が抗争に巻き込まれて死んだのは……俺を庇ったのはその一週間後の事だった。
/68ページ

最初のコメントを投稿しよう!

46人が本棚に入れています
本棚に追加