46人が本棚に入れています
本棚に追加
冬の大型同人イベントにむけ新刊を書き殴る日々が既に3ヶ月続いていた。最初こそ余裕のはずだったが急遽仕事が入ったり、出張だったりであれよあれよと時間が過ぎ、気づけば今日が入稿ギリギリライン。
それでもどうにか乗り越えて無事入稿、晴れて屍になれているのはひとえに元相棒である樹のお陰だった。
「おーい、俊介。生きてるかぁ?」
「あぁ、無事屍だ」
「ばーか、それ生きてないだろ」
とはいえ雑然としたマンションの一室に30過ぎたいい大人が二人寝転がり、天井見上げて乾いた笑いを浮かべている。
俺、南野俊介は同人暦10年以上の腐男子であり、ゲイでもある。
高校時代に始めたこの活動は、それこそ最初は細々としたものだった。在庫を抱えて途方にくれ、もっと上手くなろうと打ち込み、気づけば教科書は当時の推しキャラの落書きで埋め尽くされている。
そうして気づけば壁サークルへと進化し、今はシャッターだ。
今も色んな作品に触れては尊さを噛みしめ、推しの幸せを全力で応援している。
これでも一応は社会人で部下のいる身だ。表の世界では一切の腐臭を断ち、親切な先輩で有り上司である。正直部下をこの家に入れる事はできない。寝室兼作業部屋となっている洋室は完全なる腐界である。
そして隣に寝転がり、同じように燃え尽きている男もまた、同じ腐界の住人だった。
樹永和。高校時代からの親友で元相方。元々は二人で活動していたんだ。
樹がシナリオを書き、俺が絵を描く。好きな漫画が面白いくらい一致し、しかも実は隠れて腐っていたのを知って誘った。社会人になって会社が分かれても数年は週末集まって一緒にやっていた。
俺はそんなこいつの事が密かに好きだった。
でも樹は20代の半ばで突然結婚した。会社の先輩だという女性を紹介されたとき、俺は人生終わった感じがして絶望し、そのままサークルを解散して一人になった。
試行錯誤でシナリオを作って、描いて。でも正直少ししんどくなっていた。俺がこの活動をし始めた切っ掛けである樹をなくしてしまったら、もう活動自体に意味はないように思っていたから。
最初のコメントを投稿しよう!