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これが6月の話。現在12月24日の俺はというと……。
「こら、剛! がっつくなよ」
俺の家でクリスマス・イヴを楽しんでいた俺達はすっかり世の恋人と変わらない関係になっている。とはいえ、俺はまだ最後までこいつに許したわけじゃない。そこは何というか……踏ん切りがつかないままだ。
現在お片付け中。使った皿やグラスを洗う俺の背中に、この大型犬がのしかかって重かった。
「優雅さんが構ってくれないので来ました」
「片付けてんの。こういうのは少ないうちに片しておかないと後々面倒になるだろう」
それに今日が金曜日で明日は休み。こいつ絶対に泊まるだろう。それに俺は一つ踏ん切りをつけるつもりでいる。今日の為に色々調べたよ。特別感ないと踏み切れないよな、こういうの。
肩に重みが乗る。頭を乗っけたこいつが今どんな顔をしているか、俺はなんとなく分かっている。
「優雅さんのメシ、美味いです」
「そりゃ良かった」
「俺の嫁最高です」
「いつから俺はお前の嫁になったよ」
「じゃあ、俺が嫁します」
「番犬じゃなくてか?」
「寂しいと泣いちゃいますよ」
「そりゃ大変だな」
洗った食器をすすいで伏せて、俺は手を洗って拭いた。
そうして振り向いた途端に唇を塞がれて、俺は内心笑った。この大型犬、本当に待てができない。でもそんな所も可愛いと思えてしまったんだから仕方がない。
「優雅さんの唇、甘い」
「ケーキ食べたしな」
そう言いながらもまた唇を重ねる。腰を抱いて覆い被さるようにされるキスは男としてちょっと癪でもある。でも凄くがっつくし、余裕もないこいつを見ると愛しさも募るんだ。
「お前、本当にキス好きだな」
「好きです。俺がキスすると優雅さん、凄く嬉しそうだし」
「!」
おっと、これは自覚が無いぞ。恥ずかしくないか俺。
思わず目を逸らした俺の頬に剛が触れてくる。見れば真剣な目だ。もとい、余裕の無い顔とも言う。
「俺の事、好きですか?」
「まぁ」
「言葉が欲しいです」
「好きだって! 言わせるなよ、こういうの俺は苦手なんだって」
蔑ろにしてないし、それなりに好意は伝えているつもりだ。そうじゃなきゃ仕事帰ってから手料理なんて作らないっての。
でもこれで剛は満足そうに笑う。嬉しいんだろうな、こんな事が。可愛い所があるんだよな。
「優雅さん、ごめん。明日クリスマスプレゼント買う」
「ん?」
「まさか今日誘って貰えると思ってなかったから、用意してなかったんだ」
「ちなみに何を用意するつもりで?」
「優雅さんの好きなワイン、取り置きしてもらってる。あと、薔薇の花」
「似合わね! ってか、それ俺に似合うと思ってるのかよ」
「優雅さんなら似合うと思います」
「お前、特殊フィルターかかってんな」
言いながら、俺は笑って剛の体を押した。
「俺はお前のクリスマスプレゼント用意してるぜ」
「今はいりません。交換したいです」
「本当にいいのか? 俺のバックバージンは期間限定だぞ」
恥ずかしいから茶化すように言った。だって、『プレゼントは俺だぜ』なんて痛すぎるだろ?
剛は少し時間をかけて理解したらしい。眠そうな目が徐々に見開かれていくのを見て、俺は悪戯に成功した満足な気分になった。
「お前からのクリスマスプレゼントは、まぁ……それ? で、いいわ」
剛を指さす。気持ち、少し下めに。流石に下品かと思ったら、剛は目をキラッキラに輝かせて俺を抱きしめた。
「プレゼント交換、しましょう」
「下ネタ」
「言い出したの優雅さんです」
「だな。でも、嬉しいだろ?」
「俺、明日が命日かもしれません」
「ったく、バカだよなお前も」
でも、そんな所が可愛いし、こんなだから多少振り回されてもいいかと思えるんだよな。ほんと、困った奴だよ俺の彼氏は。
END
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