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真実の向こう
「だから期間限定だったんだね。忘れちゃうんだから詩織の事も考えて、距離を保つために嘘をついてたんだと思う。だけどね。手術を受けたいって言ったんだって。詩織と付き合い始めてからだよ。ずっと一緒にいたいって思ったんじゃないかな。1か月で忘れるくらいなら、手術で良くなる方に賭けたいと思ったんだよ。手術は5日前に終わったって」
詩織には、心亜の声が水の中で聞いているみたいにボヤけていた。
――瑛太に会いたい。今すぐ瑛太に会いたい。
教えられた住所には、ベネチアンハイムと書かれた3階建ての家があった。詩織の背中に心亜が手を添えた。詩織はゆっくりと歩き出した。
瑛太の部屋は2階だった。詩織は脈打つ心臓を抑えるように、1歩づつ階段を踏みしめていった。踊り場を曲がると、ケイタイを見ながら降りてくる人がいた。
――瑛太。
一瞬立ち止まると瑛太が顔を上げた。詩織と目が合うと「こんばんは」と笑顔を向けて横を通り抜けて行った。
――全部終わったんだ。
全身の力が抜けて座り込みそうになった。
「え!」
聞こえた声に詩織が振り向くと、踊り場で振り向いている瑛太と目が合った。瑛太はケイタイと詩織の顔を交互に見ている。ケイタイの画面にはシーランドで撮った詩織が写っていた。
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