58人が本棚に入れています
本棚に追加
大きなキャリーバックを引く俺に続いて、彼女も店を出る。
「たっくん、見て!」
彼女が見上げた先には、飛行機雲が遥か遠くの空へと長く続いていた。
「あの雲みたいに、桔梗も真っ直ぐに進んでいくんだぞ。夢から逃げんなよ」
「⋯⋯うん」
彼女は心を決めたような表情で空を見つめていた。
きっと、桔梗なら大丈夫。
人の笑顔を自然と花開かせ、誰かの心に寄り添える人間になれると、俺は信じている。
「やっぱりたっくんの所、行きたかったな」
「また今度、遊びに来ればいいじゃん」
「遊びに行くんじゃなくてさ⋯⋯」
桔梗のそのときの、あまりにも真っ直ぐな瞳に、俺は言葉を失う。
「うんん⋯⋯なんでもない」
「ふふっ、なんだよ」
「本当に鈍感」
「なんだとー!」
ふざけて肩を組むと、彼女は、やめてよ~!、と恥ずかしがりながらも、晴れ晴れとした今日の澄み渡った空の様ないい笑顔を見せた。
最初のコメントを投稿しよう!