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その愛、育ててますか?──誠実
──── ねぇ、たっくん。今度、相談に乗ってくれない? でも、お母さんには内緒にしておいてよ。
そんな風に桔梗から連絡があったのは、先週末だった。久々に聴く桔梗の声は大人っぽくなっていて、彼女の母親と間違えてしまうくらい似ていた。
いつが最後だったか記憶も定かではないくらい、ここの空気を感じるのも久しぶり。
今の職場がある新宿から、各駅に乗ったとしても20分ぐらいで着く場所にあるのに、新宿から反対側に30分行った場所で暮らし始めてからは、めっきりここに足を向けることも少なくなってしまった。
まぁ、足を向けることがなくなった理由は、他にもあるのだが。
これって、駅前のいずみ屋の山型食パンの焼ける匂い? いや、この先にあるお好み焼き屋サンフラワーの名物たい焼きか。それとも、ここの歩道を黄色に染めているイチョウが、人々に踏まれ、最後の力を振り絞って出す、青臭い匂いか。懐かしいなぁ。
俺がガキの頃は、イチョウ並木が続くこの大通りを、黄色い葉を巻き上げながら友達の家へ自転車に乗って飛ばしたもんだ。この季節になると、この道を通る人々の顔が自然と綻んでいて、いつもより優しく穏やかに見える心地よい空気感そのものが好きだった。
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