その愛、育ててますか?──誠実

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 桔梗は高校2年生。  俺の姉貴の娘。  生まれたばかりの産声も聴いたし、その成長をこの目でずっと見てきた。買ってあげたおもちゃを喜ぶ桔梗を見ることが、俺の年末年始の楽しみのひとつだったくらいだ。  そんなあいつも、もう高校生。  そりゃあ、俺も歳を取るはずだ。  小学生のころ、母さんと姉貴は俺のことを『たっくん』呼んでいた。そして姉貴は桔梗にその呼び方を教えたようで、来月31歳になる俺を今だに『たっくん』と呼ぶ。  俺は壮太(そうた)だっていうのに。 『そうくん』って顔じゃないからって理由で。それにしても、ひらがなの最後だけ取って『たっくん』だなんて、安易すぎる。傍から見たら誰だか分かりやしない。  でもまぁ、今となっては、そう呼ぶのは桔梗だけだから、それも良しとしていた。  もしなんかあったら相談に乗るぞ、と、彼女が数年前に初めてスマートフォンを買ってもらった時に俺の携帯番号を教えたけど、それが彼女にとって入用になるようなことは、これまで一度もなかった。  俺だって、親である姉貴夫婦を差し置いて、大それたことができると思ってはいないが、俺自身、思春期に親以外の大人からもらった言葉が、大きな力になった経験がある。だからこの多感な時期に差し掛かった彼女の背中を押せる言葉のひとつになれたらという思いが多少あったからだ。
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