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「それで」
「それでって?」
「ほら、相談があったんだろ」
「えっ、いきなり。もしかして時間ないの」
「いや、今日はとことん桔梗の話を聞くつもりでいるから」
俺の言葉に、彼女は少し照れくさそうにはにかむ。
「ありがとうね。時間作ってくれて」
「今日はやけに素直だな。可愛いじゃん」
「たっくん、可愛いとか⋯⋯簡単に言わない方がいいよ。勘違いされるから」
「なにの勘違い」
「ほら⋯⋯たっくん、いつもそういうこと、軽々しく口にするから。変に勘違いしちゃう子だっているってこと」
「そうかな。今日も可愛い桔梗に頼まれちゃ、おじさん的には断れないだろ」
「だから、そういうとこ!」
「なんだ、今度は拗ねたか」
「もう、いいよ」
そのとき、お待たせしました、と華やかな明るい声とともに、湯気を上げたマグカップが俺の前に置かれた。朝から何も入れていない胃に、少しだけそのコーヒーを流し込む。
手元のカップから視線を上げた場所にあった桔梗の表情は、不機嫌そうに少し俯き、への字口になっている。それは彼女が幼稚園のころ、食べようとしていたアイスクリームを落として、必死に涙を堪えていたときと同じ顔だった。
生意気を言っててもまだ子供。
その様子をまた言葉にしようかと思いかけたが、さらに拗ねられては話が進まなので、言葉を飲み込む。
「ごめん。真面目に聞きます」
「⋯⋯うん」
「深刻なこと? 相談って」
「私にとっては」
「そっか」
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