その愛、育ててますか?──清楚

2/4
前へ
/15ページ
次へ
「それで」 「それでって?」  「ほら、相談があったんだろ」 「えっ、いきなり。もしかして時間ないの」  「いや、今日はとことん桔梗の話を聞くつもりでいるから」   俺の言葉に、彼女は少し照れくさそうにはにかむ。 「ありがとうね。時間作ってくれて」  「今日はやけに素直だな。可愛いじゃん」  「たっくん、可愛いとか⋯⋯簡単に言わない方がいいよ。勘違いされるから」  「なにの勘違い」  「ほら⋯⋯たっくん、いつもそういうこと、軽々しく口にするから。変に勘違いしちゃう子だっているってこと」  「そうかな。今日も可愛い桔梗に頼まれちゃ、おじさん的には断れないだろ」  「だから、そういうとこ!」  「なんだ、今度は拗ねたか」  「もう、いいよ」   そのとき、お待たせしました、と華やかな明るい声とともに、湯気を上げたマグカップが俺の前に置かれた。朝から何も入れていない胃に、少しだけそのコーヒーを流し込む。   手元のカップから視線を上げた場所にあった桔梗の表情は、不機嫌そうに少し俯き、への字口になっている。それは彼女が幼稚園のころ、食べようとしていたアイスクリームを落として、必死に涙を堪えていたときと同じ顔だった。  生意気を言っててもまだ子供。  その様子をまた言葉にしようかと思いかけたが、さらに拗ねられては話が進まなので、言葉を飲み込む。  「ごめん。真面目に聞きます」  「⋯⋯うん」 「深刻なこと? 相談って」  「私にとっては」  「そっか」 
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

58人が本棚に入れています
本棚に追加