その愛、育ててますか?──清楚

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 俺もあのころ、将来への熱い思いを握りしめて夢ばっか見てたけど、無闇に焦ってたし、不安が常に付き纏っていた。  高校の美術で触れた水墨画の魅力に取り憑かれて、その歴史を学んだり作品展を見に行くうちに、水墨画の世界へ進みたいと思うようになった。  そのことを母さんに伝えたときのあの驚きようは今でも忘れない。  でもそのすぐ後、何度か訪れていた作品展で現代水墨画の巨匠と言われる先生に気に入られて、話はトントン拍子に動き始めた。それでようやく母さんの了解を得て、大学で水墨画を学んだ後に、晴れてその先生の元に弟子入りした。今は技術を先生の傍で学びながら、雑務をこなす日々。  俺は、40歳に胃ガンで亡くなった父さんと、それからずっと花屋を一人で切り盛りしていた母さんとは、心は強く繋がっているけれど⋯⋯血は繋がっていない。  姉貴を産んだすぐ後に、病気で子宮を取り除いてしまった母さんは、どうしてももう一人子供が欲しいと、養護施設にいた4歳の俺を養子として迎え入れてくれた。それからは姉貴と同じように愛情深く育ててもらった。  そんな母さんが、高校で水墨画をやりたいと言った俺のことが心配だった気持ちも、今ならよく分かる。  それに父さんが生きていたとしたら、きっと背中を押してくれていたことも。
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