海が落ちてくる!

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 ばしゃん、と水しぶきが水面を叩くような音に、魚でも跳ねたのかな、いやいやイルカかも、と振り向いても何もいない。そこで見逃したか、残念、と視線を逸らすようでは君は何も理解していない。今跳ねたのは海自身だ。  馬鹿な、海の水が独りでに動くはずが無いよ、生き物じゃ有るまいし、だって。まあそうだね、その考えは尤もだ。でもさ、僕たち人間だって、体内の細菌と電気信号に操られたタンパク質の船に過ぎないじゃ無いか。  君が持っている意識という者が本当に君という生き物の物で、例えば内臓を取り出して丸洗いして、体内の細菌を丸々入れ替えても君の意識が変わらないと思う?  僕はそう思わない。臓器移植をしたらドナーの記憶がフラッシュバックするようになったとか、腸内細菌を整えたら穏やかになったとか、よく聞くじゃ無いか。そして海水にだって原核生物、真核生物、脊椎動物、無脊椎動物・・・まあいろんな生物が暮らしている。彼らの営みが海水そのものに僕らの言う所の意思めいた物を植え付けたとしても、何ら不思議は無いんじゃないかな?  最初に意思を持った海水はほんの一滴かもしれない。でも水同士を触れさせたらどうなる? そう、混ざるよね。一滴の海水が一つの湾に混ざり、湾に注ぐ海水が集まって外洋に注ぎ込み、外洋はまた別の湾に触れて・・・まあ、意思を持った海水はどんどんふくれあがっていくわけさ。最終的には地球の海水全部が意思を持つかもしれない、いや、多分もう持ってるんだよ。
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