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叔母の焼いたクッキーを食べながら、お喋りに付き合う。
「そのスーパーの衣類コーナーが本当に安いんですって。安いけどデザインが悪いとかじゃないって言うの。イーロンも明日一緒に行ってみない?もう今の服も飽きたでしょ?」
ハリケーンで半壊した家からなんとか見つけ出した服を着回していた。それも子供ながらに世話を掛けたくないとするイーロン本人の意思だ。
「ぼくはこれでいいよ」
「ダメよ。男の子でもちゃんとファッションに気を使って、オシャレにしないと」
「オシャレな服だと虫や花を取りにいけないもん」
「汚してもかっこいい服もあるの。ね、明日」
それ以上断るのもマナー的に失礼だろうと思い、イーロンも頷くしか無かった。
翌日、叔母の運転する車の後ろに座って流れる雲を眺めていた。スーパーは隣町に最近出来たばかりで、車でも40分は掛かる。
家を出てすぐに住宅街は切れ、しばらくは牧草地だ。窓を開けるとすぐに放牧された牛の糞の匂いが飛び込んでくる。
カーラジオからはイーロンの興味を惹かない曲ばかりが流れていた。
しかしちょうど家と隣町の中間あたりでラジオに雑音が混じりだした。
叔母がチューナーを片手でいじっていたが、雑音の方が多くなる。
「いつもはちゃんと届くのに」
田舎の年寄らしく掌で叩いてもいる。
三回目に叩いた時、雑音が消えた。満足そうな叔母の顔がルームミラー越しに見えたが、ラジオの内容でその顔は凍りついた。
「政府による緊急放送です!国民の皆さんはすぐに頑丈な建物に隠れるか安全な場所へ避難してください!繰り返します。政府からの緊急放送。すぐさま安全な……ガーーー」
「なによこれ」
「おばさん、何があったの!?」
「分からない、でも逃げなきゃ!」
「どこへ?」
「分からない」
辺りを見渡しても牧草地ばかりで小さな小屋すら見当たらない。でも急ハンドルで車が脇道に入ると、砂利道なのに叔母はアクセルを踏んだ。
「あそこしかない!」
シートの間からイーロンが顔を出すと前方にサイロが見えた。
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