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ハニー
怒号が町に溢れていた。
おい!なんだよ!!
政府の緊急放送だとよ!
混乱に紛れて一台のジープが急発進し、行き来する車の間をすり抜けながら町の外を目指す。対向車のクラクションの音が素早く後ろへ流れてゆく。
助手席の男がフロントガラスに向けて「どけろー!ノロマどもが」と手を左右に振る。
「なんなんだよ、宇宙人の急襲か!?」と運転手も悪態をつきながらギリギリで対向車を避けるようにハンドルを切る。
しかし突然、他の車の影に隠れていた車高の低いスポーツカーが真正面に割り出した。
「ちっ!」と舌打ちしたが遅く、車高を上げたジープ の前輪がボンネットに乗り上げると、フロントガラスを割りながら宙を舞った。
舞いながら助手席の男が「おい!」と叫ぶ。
下降しかける車体のその先に小さなSUVが見えた。
「ダメだ……」
と思えたとき、SUVは軽い車体にものを言わせて急転回した。
運転手の顔がスローで見える。
「えっ!?子供!?」
ハニーはジムニのハンドルを横転ギリギリの角度に回して、飛んでくるジープをかわした。
「ちょっと!なにやってんのよ、いい歳こいて」
ギヤを3速に落としてトルクを掛け、アクセルを踏み込む。
「日本車ナメんなよぉ」
ハニーは滑り出した後輪に合わせて向きを変えると、散り散りに車道へ飛び出す通行人を避けながらハンドルを切り続けた。
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