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常にまっすぐ前を見て、自分が正しいと思ったことをする。
父は自身の言葉をきちんと実践していた。人間として、父親として、刑事として。
結果的には命を落とすことになってしまったが、きっと後悔はしていないに違いない。
鉄平の思い出の中の父は、いつも前を見ていた。迷いも、弱さも、決して見せなかった。
と、不意に――
鉄平の脳裏に、映像が浮かんだ。
大きな岩の上に父が座っている。上部が平らになった、ベンチのような岩だ。
高い場所らしく、眼下には夕日に照らされた町並みが広がっている。
静かに町を眺める父の横顔を鉄平は見上げている。
ふと、父の浅黒い肌の上に何かが光った。
涙だった。
涙は父の瞳から溢れ、頬を伝って流れ落ちる。
それでも父はしばらく町を眺めていたが、やがて目元に手を当て、小さく嗚咽を漏らし始めた。
唐突に浮かんだ映像は、そこまででまた唐突に途切れて消えた。
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