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夏嶋二千花の見る世界
私は病気だ。
医者に行って具体的な病名を教えて貰ったわけじゃ無いけど、みんなそう言うから多分そう。どんな病気かって言うと、周りの景色が海に沈んでいく、周りの物もみんな魚のように見えてくる、そういう風に見える病気。
いつでもそうって訳では無い。でも気が付くと海が私の知覚を乗っ取っている。幻の魚が視界の端を泳ぎ回り、幻の泡が耳元ではじけて、酷いときは人に魚がダブって見える。そのまま幻の海に思考をゆだねていると、酷く落ち着く。多分、こっちが私にとっては本当の世界なんだろう。
その話を他の人に言うと、決まってこう言われたんだ。
「夏嶋さんって、病気なんじゃないの」って。
別に否定しない。私が皆の輪から浮いていることは事実だからだ。でもその場でそう言われるだけならともかく、知らない人に勝手に私のことを話したりされると鬱陶しいので、物心つくにつれて周りに私が見ている世界のことを話すことは無くなった。
だから私は、一人で幻の海に留まり、海が見えないときでも寂しくないように、見える世界を描き残すことにした。そのせいでますます周りから浮いている気がするけど、別に。
先生や親からは友達を作れと口うるさく言われることがあるけど、これは虐めじゃ無いから辛くもなんともない。私が陸に必要とされてないだけだ。
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