94.束の間の休息

1/1
292人が本棚に入れています
本棚に追加
/124ページ

94.束の間の休息

ソフィアちゃんの服を借りて着替えさせてもらい、結婚式の準備が始まった。 暴風雨で吹き飛ばされていた屋台の土台やテーブルを掻き集めて、なんとか使えそうなものを森に運び込む。 「本当にアステリの木があったのか」 「雷の後に流星が降ってたが、あれのお陰で熟したんだな」 「こりゃ盛大な結婚式になるぞ!」 熟したアステリを見た村の人達に活気が出る。 この村のシンボル、アステリはみんなの心も輝かせてくれる力があるみたいだ。 ソフィアちゃんや村の子達が飾りつけを引き受けてくれたから、私は一旦家に戻ろう。 ――と、パタパタと羽の音が聞こえる。 ピッチたちが3羽横に並んで、何か棒のような物を運んで飛んできた。 って、あれ私の杖だ! 両手を出すと、ピッチたちが私の手の上にぽとりと杖を落とした。吹き飛ばされたときになくしちゃったの、探してきてくれたんだ。 急いで魔法の呪文を唱える。 「ありがとう、みんな。杖を探してきてくれたんだね」 『そうよ。アリシアったら、忘れていたでしょう』 『大事な杖なのに、ダメじゃない』 『ドジね! ドジね!』 「ごめんごめん、助かったよ。これがないと、みんなとお喋りできないもんね」 『それより、結婚式の準備はできたの?』 『私たちが結婚式の歌を歌ってあげる』 『歌ってあげる! 歌ってあげる!』 「本当!? お父さんたちも、村の人たちもきっと喜んでくれるよ!」 小鳥たちから杖を受け取って、大事に服の中にしまって森を出た。 家の近くまで行ったところで、誰かが歩いてくるのが見える。キレイなエプロンを付けた仕立て屋のお姉さんだ。 「お姉さん!」 「あら、アリシアちゃん。今ちょうどお洋服を届けに行ったところよ。気に入って頂けて嬉しいわ」 お父さんたちのスーツ! 見たい! 結婚式のお楽しみにしておきたい気持ちもあるけど……ソフィアちゃんには悪いけど、抜けがけさせてもらっちゃおうかな。 お姉さんと別れて家の傍まで来ると、ヒヒーンとライラック号の鳴く声が聞こえる。 ライラック号も避難してたはずだけど、お父さんたちが連れて戻っていたらしい。 家の裏手にまわって厩舎に行くと、ライラック号が前足を飛び上がらせた。 杖を取り出して、魔法を使う。 「汝の声を聞かせ――」 『お嬢! 旦那とサディアスの兄さんの結婚式、できることになったんですかい!?』 呪文が終わる前に喋り出した気がするけど、気のせいだろうか。 「本当だよ。お父さんたちに聞いたの?」 『そうでさあ。フルグトゥルス騒ぎでどうなることかと思いやしたが、星降る夜に結婚式なんて、最高でさあね』 「森で準備してるから、ライラック号もお祝いに来てね」 『え! アッシも参列してよろしいんですかい?』 「もちろんだよ! ライラック号も家族なんだから、参列してくれなきゃ」 私がそう言うと、ライラック号が大きく頭を仰け反らせて天高く鳴いた。 『くうぅ〜! このライラック号、この上ない喜びでさあ!!』 ライラック号の黒い艶やかな瞳が濡れている。 『任せてくだせえ、お嬢! このライラック号の馬車で、おふたりを式場までご案内いたしやす!』 あのシンデレラみたいな馬車。確かにウェディングロードにはピッタリだ。 普段のときはちょっと恥ずかしいけど、新郎2人を乗せて飛んで行くんだもんね。 ライラック号に待っててもらい、いよいよお父さんとサディさんのスーツ姿を見に行く。 リビングから階段を駆け上がって、お父さんたちの部屋へ直行。 「お父さん! サディさん! ウェディングスーツ見せ……て……」 ノックもせずにドアを開けてしまうと、ベッドの上で上半身裸のお父さんと、同じく半裸のサディさんが重なるようにして寝ていた。 これは……事後!? ではなさそうな雰囲気。寝息を立ててる2人は、着替える最中に力尽きて寝てしまったようだ。 朝からずっと動きっぱなしだったもんね。その上、そのまま結婚式をさせるなんてちょっとハードスケジュール過ぎた。 もう少しだけこのまま、寝かせておいてあげよう。 2人の穏やかな寝息を聴きながら、そっとドアを閉めた。
/124ページ

最初のコメントを投稿しよう!