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「おいで」と言われ、ついて行くと原っぱの一角に小屋が見えた。
よく見れば、小屋の外には木でできた柵が遠くまで続いている。
その柵の中に何頭かの馬が見えた。
「ここ、牧場なの?」
「城の厩舎なんだ。訓練に行ってる馬たちは出払ってるから、今いるのは引退した馬と仔馬たちだけだけど……」
「アル!」
振り返ると、馬を引いた男の人が立っていた。
歳はお父さんと同じくらいで、柔らかそうな灰色の髪に紫の目。背はお父さんよりちょっと低いけど、なかなかイケメンだ。
いやそれよりも驚いたのは、この人オレウケのサーシェスにそっくり。
「急に休んだと思ったら、こんなとこで散歩かよ。体調でも崩したのかと思って心配したってのに」
「悪い、サディ。今日はアリシアと出掛ける約束をしてて」
サディ、と呼ばれた人が私を見下ろす。
「キミがアリシアちゃんか! リリアさんに似てかわいいじゃん。そりゃアルが溺愛するはずだ」
通る声でそう言われ、反射的に後退りしてしまった。
「おい、この子は人見知りなんだよ。あんまり怖がらせないでやってくれ」
中身が20歳なのに人見知りとか申し訳ない。
でもサディアスさんは気にした様子もなく、私の前に膝をついた。
「驚かせてごめんね。僕はサディアス・アガスターシェ。お父さんの友達だよ」
「仕事の同僚だ」
「なにそれ。他人行儀な言い方。ずっと旅した仲じゃんか」
旅ってことは、もしかしてサディアスさんも……
「サディアスさんも、魔王を倒した勇者様なの?」
というと、サディアスさんとお父さんが顔を見合わせた。
サディアスさんが吹き出す。
「勇者様はアルだけだよ。僕らは勇者率いる愉快な仲間たち」
「やめてくれ。全員で倒したんだから全員が勇者ってことでいいだろ。俺だけに押し付けるな」
「だって勇者なんていろいろ面倒だろ。リーダーだったんだから、アルが勇者様でいいんだよ」
「それもお前が勝手に決めたんだろうが」
お父さんがリーダー?
なんとなく頼りない今のお父さんからは想像できない。
「それより、こんなところで喋ってて大丈夫なのか? 訓練は」
「終わったよ。今ライラック号を戻しに来たとこ」
「ああ、そうか。今日の訓練は午前中だけだったな」
「誰かさんがデートに行ったせいで、ちょっと時間過ぎちゃったけどね」
「悪かったって。埋め合わせするから」
お父さんがサディアスさんの引く馬を撫でる。
馬も嬉しそうにお父さんに首を摺り寄せた。
「こいつがお父さんたちと一緒に旅したライラック号だ」
「優しい馬だから怖くないよ。アリシアちゃん、触ってごらん」
サディアスさんに言われて、そっとライラック号に手を伸ばす。
あったかくて、引き締まった硬い身体。
「こんにちは、ライラック号」
ライラック号は丸い瞳で私を見た。
穏やかそうだけど、この子もお父さんたちと一緒に魔王を倒しに行ったのか。
人も馬も、見た目じゃわからない。
「アリシアちゃんも今度ライラック号に乗ってみる?」
「え、でも私お馬さん乗ったことない」
「大丈夫大丈夫。乗馬が下手な誰かさんでも乗れたんだから、アリシアちゃんなら簡単に乗れちゃうよ」
「おい」
お父さんのツッコミを受け流し、サディアスさんはライラック号を厩舎の中に連れて行った。
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