第5話-2 万華 不審を抱く

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第5話-2 万華 不審を抱く

 トントントン、ガシャ 「おーい、権さん、おりまっか? 万華やで」  古ぼけた雑居ビルの貧乏探偵事務所の古ぼけたドアを開けると、パソコンオタクが飛んできた。 「やー、万華ちゃん。学校の帰りなのかい。ボスは、コーヒー買いに行ってるけど、直ぐに帰ってくるよ。今日は如何したの? ささ、ここに座って。ああ、ちょっと待った」  座りぃと言うたり、待てと言うたり。忙しい奴やな。ああ、チラッと見えた成人雑誌をかたしているんやな。  どれ、ちょっと貸してみい。 「ふーん、こないが趣味なんや。おお、凄い。おお、このサオなかなかええな」 「えっ、いや、これはボスの本、いや、これは浮気調査の証拠の …… 万華ちゃん、サオって何で知ってるの?」 「四千年も生きて、あっちこっちの世界行ってれば、もっと凄いのも見たことあるで。そおや、パソコン君のはどのくらいや?」 「えっ?」 「そやな、このくらいか?」 とめくったページを見せた。 「うううう」 「なんや、何がそないに哀しいや?」  ガシャ 「ああ、万華来て …… おい久保田、万華に何を見せているだ? お前 ……、何泣いているだ?」 「うううう」 「万華、子供をからかうじゃねぇ」 「子供って、うううう」 「からかう? ダイエットの広告、腹はどのらいやって聞いたやけどな。久保田、太りすぎは良くないで」    ◇ ◇ ◇  権さんは、買うてきた缶コーヒーをテーブルに置き、 「久保田は、張り込みに行かせた。あんまり虐めるなよ。四千歳も年下なんだから」 と言いながら、ウチの座っているソファーの斜め前に座った。  ウチは、ソファーのうえであぐらを掻いて、両手を頭の後ろに回して 「だっておもろいだもん」 と答えた後、成人雑誌をいれた段ボールを顎で指して 「それより権さん、あんな本を置いとるようじゃ、余ほど暇なんやな」  すると権さんは、首を少し横に振り、 「違う、あれは証拠品。浮気調査」 と答え、缶コーヒーのタップルを開けた。クシュと言う独特な音がする。 「そうけ。まあ、ええわ。ウチ、ラノベ研に入会して話を聞いてきたで」 すると、権さんは前のめりになって、 「おう、それで何か分かったか?」 「士佐山は、上坂京子のラノベに出てくる金の女神のファンだった」 「金の女神って、狐だろ? 実世界で虐げられていた主人公を何度か励まして、不慮の事故で無くなったとき、転生を助けて、転生してからも、主人公を助けて、最終的に魔王を倒させるとかいう」 「そうや。何か可笑しいと思わへんか」 「金の女神って、お前に似ているな。いや、蓬莱の仙人の仕事に似ているってことか?」 「そうや、小説には一灯仙人を匂わす所もあるで」  権さんはソファーの背もたれに背中を押しつけて、 「なんか、見てきたみたいだな。上坂京子って転移者か? それとも、お前と同じ天女か?」 「それは分からへん。それともう一つあるで。昨日も言ったけど、虐められる士佐山も小説の主人公と一緒やで」 「感情移入はしやすかったと言うわけか」 「士佐山はそれ以上や。金の女神は、実際におるとラノベ研で言っとったらしい」 「転移失敗して、お前とこうして話している今では、金の女神がいても不思議に思わねぇな」 「狐ちゅうのはちゃうけどな」  権さんは、上半身を不自然に屈んで缶コーヒーを取り、 「こちらの情報だが、お前に頼まれた、士佐山と上坂京子との接触の件、あったよ。一年前のサイン会で握手をしている姿が動画に残っていた。それから、もっと驚いたことに、時期はそれぞれ違うが、都内の猟奇殺人の被害者のうち数人、サイン会で握手をしていた」 「 …… 」 「どうした? 」 「狐か。まあええや、これから、みこちゃんが推薦してくれたラノベ読まなきゃ」
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