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第6話-1 万華 那須高原に行く
「しっかし、狭いな。何で、こないに小まい車やねん」
「文句を言うな。俺は、このスバル360が好きなんだ。それに、お前一人で後ろを占有しているだから、我慢し…… だから、万華! 足を前に出すな。久保田! ニヤけるな」
「ああ、もう狭いねん。ウチは、おっきくて、ぶっといのに乗るのが好きやの」
すると、久保田が
「ぶっと…… 」
と口を滑らした。それは、万華の罠だよ。久保田君。
案の定、
「久保田、なに想像しとるん? あっ、やらしいぃ」
ドン
「万華! 蹴るな! 椅子が壊れるだろ! 」
「へいへい」
今日は、万華が、上坂京子が失踪した場所を見たいと言うので、探偵調査を兼ねて那須高原にやって来た。上坂京子は20歳の時、友人とここにやって来て行方知れずになり、六日後に東京の自宅で発見された。その後のラノベでブレイクしたときは、注目を集めるための自作自演と取り沙汰されたこともあった。
目的地近くの駐車場で休憩を取ることにしたら、万華は久保田を押し出して、さっさと外に出た。
「あー、狭かった。体のあっちゃこっちゃが痛くなった。久保田、ウチはあつい…… 」
と言いながら、万華は柔軟体操をしている。
その光景を後ろから眺めていた久保田が、
「ボス、万華ちゃん、寒くないですかね。それに足、ほんと長いすね」
と言う。
『見るな』と言いたい所だが、こいつがこう言うのも無理がない。上はセータだが、下はショートパンツ。長い手足に腰まで伸びた黒髪。男の目を引かないわけがない。
「お前さ、万華に惚れるなよ。これはお前の為に言っているだからな。あれは別次元の爆弾娘だから。絶対不幸になるぞ」
本当に別次元の天女だからな。
「そうなんすか。釣り合うように、僕、頑張ります」
「お前、俺の言ったこと聞いてる?」
聞いているのか聞いていないのか、真剣な眼差しで青年は頷いている。
そして、
「ボスは、コーヒーで、万華ちゃんは,お茶で良いですか?」
「俺は、それでいい、万華は あつい…… 」
久保田は、最後まで俺の話を聞かずに、観光協会近くの自販機に飛んで行った。
入れ替わって、戻ってきた万華に
「万華、今日は何故車で行こうと思ったんだ? お前、飛べるだろ?」
「久保田をからかうと、おもろいから」
「お前なぁ」
「領巾が…… 見つかったんや。まだ回収してへんけど」
「江ノ島のニュースか。俺もそうだろうと思っていた。良かったじゃないか、それで蓬莱に帰れるんだろ?」
「うん。せやけど、今回の上坂京子の件は見極めておこうと思うんやけど、領巾回収したら、蓬莱に帰るしな …… 一緒に車の旅もええかなと思ったんや」
「へー、万華でも、そんな、しおらしいことをするんだ」
珍しく、万華が顔を赤くし、
「ちゃうで、ウチは、ウチは、暴れたりないだけや」
「へーそうかい」
驚かされ一方だった万華に、一矢報いた気分でいたところに久保田が戻ってきた。
「ボス、万華ちゃん、買ってきましたよ」
と俺には缶コーヒーを差し出し、万華にお茶を差し出した。
万華は、久保田の手を両手で受けて、
「久保田、お・お・き・に」
と最後にハートがつくような、お礼を言ってウィンクまでした。
乱暴な所もあるが、基本、天女である。久保田が舞い上がったのは言うまでも無い。
しかし、
「久保田! 熱いのがええ言ったやろ。なんでひやこいのを買ってくるや、ボケ」
と怒られた。
それでも、万華はお茶のキャップを外し、飲む振りをしていた。
◇ ◇ ◇
久保田が集合写真を撮りたいとせがむので、
「ええよ、せやけど、べっぴんに撮ってな」
と答えたった。
短い時間やけどな。久保田が喜ぶなら、それでええと思った。
その後、久保田は聞き込み、権さんとウチは殺生石の方に歩いて行った。
「上坂京子は、ここに来たんかな」
「いま、久保田が観光協会近くで聞き込みしている。何か分かったら連絡してくるはずだ。ところで、この先の殺生石は、九尾の狐伝説に関係する石だろ? 狐が気になるのか?」
「ちょい気になるねん。ここで人が死ぬることはあるんやろか?」
「有毒ガスで病院に運ばれることは、時々あるって聞いたな。今も少し臭うだろ?」
ブー・ブー
権さんの内ポケットからスマホの振動音がしてきた。
「久保田からだ。 …… ああ、そうか。分かった。有り難う。他にも当たってくれ」
ウチはその様子を見ながら、会話が終わるのを待った。
「上坂京子の失踪のとき、警察が調べに来てた。『小説家の』と言うと直ぐに思い出してくれたようだ。そして、警察がしつこく聞いたのが、ここから先の足取りだ。ここで消えたということだろう。今の俺なら、消えたと結論づけても不思議に思わないなぁ」
とウチを見た。
殺生石に握手で籠絡。あいつの可能性が高いやけど、戻って来れへんはずや。
「権さん、ウチ、先に帰るわ。久保田にはウチも消えたと伝えてな」
と権さんに言った後、天女の服装にかえて、ドンという音と供に天空に舞った。
「おい、おーい」
と権さんの声を残して東京に戻った。
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