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第3話-1 万華の進路
「ねぇ、ねぇ、万華ちゃんって幾つなのかな? 18歳、それとも17歳?」
「おい久保田、万華に気安く話しかけるじゃねぇ。お前には不釣り合いだ」
「あら、ええやんけ。ウチの歳? 天仙になるのに2000年、なってから2000年経っとるから、4000歳ってとこやな」
こら万華、本当のことを言ったら不味いだろう。と俺は驚いたが、
「ええ、はははは、やだな。そんな冗談を」
久保田には冗談にしか聞こえなかったらしい。まあ、当然の反応か。しかし、万華は4000歳の美女と言う事になるのか。待てよ、転生者である俺は一体何歳なんだ。いや取りあえず考えるのはよそう。
「ここだ …… 御園婆さんいるかい? 千野だ。今朝、FAXしたろ?」
とこじんまりとした一軒家の玄関先で声を上げた。
「御園婆さんはちょっと耳が遠い。だから、連絡は何時もFAXなのさ。スマホなんて持ってないからメールも当然ない。な、久保田」
と久保田に向かって言うと、口を尖らせてそっぽ向いた。
どうだ、久保田、アナログはまだ健在だぜ。
しばらくすると玄関先の奥から、
「はいはい、そんなに大きな声を出さなくても聞こえますよ。あらゴンちゃん、今日は何の用だい?」
と口を少しむにゅむにゅしながら、皺くちゃで小さなお婆さんが出てきた。
「今日の朝、FAXしたけど、見なかったか? FAX」
と耳元で大きな声で聞いた。
すると、御園婆さんはハタときづいて、
「そんなに大きな声出さなくても聞こえるよ …… で、何だっけ? ああ、FAXね。きたきた。姪御さんをお預かりすれば良いのね。良いですよ。若い人がいれば、家が明るくなるから嬉しいわ。此方のべっぴんさんかね?」
と御園婆さんは、万華を見上げて微笑んだ。
「ウチは、千野 万華です。よろしゅうお願いします。お婆さんはお幾つになられたん?」
「今年で88歳になります。よろしくね」
「88歳なんや。まだまだ若いやん」
4000歳の万華が88歳の御園婆さんに『若い』と言う。確かにそうなんだが、何か奇妙な光景だぜ。
さて、住むところは決まった。あとは ……
「万華ちゃんは、学校何処なの?」
と御園婆さんが聞いてきた。
本当の年齢は4000歳でも、見た目の年の頃は、高校生だからな。御園婆さんの質問も頷ける。ここは一つ、『昨年卒業して俺の事務所で見習いとして働く』と言う事にしておくか。
「いや、万華は …… 」
「ウチ、仙聖学園に行く予定やねん」
と万華が被せて言ってきた。
万華、正気か? 人間界には様々なしがらみがあるだぞ。国籍、戸籍、住民票、保険証、どれもねぇのにどうやって入学するのだ? さらに入学金だ。仙聖学園と言えば、有名私立高校ではないか。入学金も馬鹿にならない。これらがねぇのにどうやって編入するだ?
「おい、久保田、先に事務所に帰ってろ。新しい依頼がくるかもしれん。俺は万華に、この周辺を案内してから、事務所に帰る」
と万華を眺めてニヤけている久保田に命令した。
悪いな久保田。俺はショボンと、肩を落として歩いて行く久保田を見送った。
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