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 友人は非凡な才能の持ち主であったので、例の眼鏡を除いても様々な素晴らしい発明を世に出した。特許使用料による収入で、立派な家も建てた。  家族にも恵まれ、傍目から見れば随分幸せな人生だったように思う。たまに食事をご一緒させてもらうこともあったが、感じの良い人たちばかりだった。  彼の訃報は突然だった。世間は彼の死を悲しんだ。彼の遺産は、遺言書にしたがって家族に相続された。その遺産が思ったより少なかったことでひと悶着あったようだが、それでも人並み以上の額ではあったので、とりあえずは良しとされたらしい。 「君がいなくなって、もう1年が経つんだな」  黒御影石で作られた彼の墓石は、まるで鏡のようだった。柄杓で水をかけてやると、なんとなく嬉しそうに笑う友人の顔が思い浮かんだ。  照りつける日差しは、私の中に残っていた寂しく沈んだ気持ちをからっと乾かしてくれた。 「君の遺言の通り、なるべく墓参りに来たけれど、そろそろ気軽には来れなくなりそうなんだ。残念なことにね」  墓石に話しかける。 「ちょっとした(やまい)だ。名医がいるというので、その名医のいる土地へ引っ越そうと思ってね」  近くのスーパーで買ってきた黄色と紫の菊の花を、水切りをして供える。 「思ったより早く、君のところに行けるかもしれないなあ……と言っても、君はあまり喜ばないだろうけど」  お墓の周りを掃除しおわり、立ち上がった。 「しばしお別れだ。いままでありがとう」  彼の墓に別れを告げた、その時だった。  墓石の表面に文字が浮かんだ。 ――懐古:B-、感謝:A、親愛:A、惜別:A ――規定の値をクリアしました ――こちらのリストにある遺産を受け取る権利を有します  ゴゴゴゴ……と墓石が後ろへずれた。現れた空洞には封筒が入っていた。  私は信じられない思いで封筒を開けた。  彼の特許についての記載とともに、直筆の手紙があった。
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