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「詩織ちゃんはどんな男の子が好きなの? ママにこっそり教えて!」
「うーん、かっこいい子……かなぁ」
小学校中学年にもなると、クラスでどの男子がかっこいいかという話題は、女子の間で定番になった。
詩織には友達が騒ぐ「かっこいい」が今一つピンと来なかったが、みんなの真似をして「かっこいい子がいい」と言っておけば、母は満足してくれた。
「あら詩織ったら。顔で決めたら後悔するわよ。人間、中身が大切なんだから覚えておきなさい」
「うん、ありがとう」
成長すれば消えると思っていた違和感は、徐々に膨らんでいった。
中学に上がっても詩織は、恋愛とか男の人とか、みんなが興味を持ち始めたものに前向きになれなかった。それどころか、異性を気持ち悪いとさえ感じてしまう。
そんな詩織が学校生活の中でつい目で追ってしまうのは、自分と同じ女子だった。
「私も詩織と同じだよ。女の子が好きなの」
ある日の放課後そう言ってくれた親友には、以前から強く惹かれていた。
自分の意志をしっかり持って、相手が男子だろうが大人だろうが主張を通す強さは、女子だけど文句なしにかっこよかった。
中身が大切という母のアドバイスは間違っていなかった。内心で母に「ありがとう」と呟く。
いつからか詩織は、彼女のことを友達としてではなく恋愛対象として見ていた。
自分でも気付かないふりをしていたけれど、気付かないわけがなかった。
親友のカミングアウトによって詩織は、仲間を得たことに対する心強さよりも、私はこの子のことを好きになっていいんだという安堵を大きく感じた。
好きな人を好きでいられる幸運に感謝せずにはいられなかった。でも、その幸運は誰にも、当の彼女にさえ明かせなかった。
彼女は私と同じ、女の子を好きな女の子。でもだからといって、私のことを好きではないだろう。
活発で運動も勉強も得意な彼女と、何の取りえもない自分が、女の子が好きという共通点だけで釣り合うとは思えなかった。
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