味覚の砂漠が狂おしい

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 立ち止まって少し考える。  ウナギとカレー。  高いウナギと安いカレー。  なんだかんだでお財布に優しい方がいい。  良い匂い。  すごく良い匂い。  あともう空腹が限界だ。  空腹時にカレーの匂いを嗅がせることは軽犯罪に分類されると思う。  カレーしかない。  心は決まった。  そのまま店の中へ吸い込まれていきそうではあったが、時刻はまだ4時。よく見ると店にはまだ準備中の札が掛けられている。仕込み中の匂いが漏れていたようだ。  是非ともこの心持ちのままカレーの海原へと漕ぎだしていきたかったが、開いていないものは仕方がない。歯痒さはあるが、どうしようもない。  また出直そうと思う。一度自宅へ戻って着替えてくれば、丁度良い時間になるかもしれない。僕は、はやる気持ちを押し殺し家路に戻った。  もはやカレー以外には興味が無くなる。例え2日続けてのカレーであっても、昨日は別の店で食べたわけで、今日のカレーとは全く違う。そもそも毎日食べても飽きないのがカレーであって、むしろ毎日カレーを食べないことこそ、カレーへの冒涜になるのではないだろうか。  カレーに頭が支配され始めた頃、信号が赤になり、立ち止まる。  交差点の対面を見渡す。  ラーメン屋が目に入る。  ……ラーメンでもいいかもしれない。  よく考えたら2日続けてカレーは愚かだ。  破壊的な香辛料の香りから離れ、ようやく僕はカレーの呪縛を断ち切った。
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