絡みあい、すれ違う

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「結婚おめでとう。」 たくさんの人に祝福されたあの日。最高に幸せだった。信也さんが、会社を辞めるという。私のせい。どうしたらいいの?どうしたら良かったの? 私の幸せはいったいどこに行ってしまったのだろう。あんな風に言ってくれた信也さんがいる。十分に幸せじゃない?何を贅沢言ってるの? 信也さんが、私以外の誰かを見ている。誰?誰? 「夏さんは、どう思われましたか?」 「ご主人の決断を」 「・・・」 「わからないんです。それがいいのか悪いのか。」 「何故?彼の言葉が嬉しくなかった?」 「嬉しい。ずっと一緒に居たいって言ってくれて。でも、どこかで、そんなの当たり前じゃない。って思ってしまう自分がいるんです。」 「今まで、それができなかったから、これから。って意味じゃないかしら?今まで以上に一緒にいようって。」 「正直に答えてね。一緒に居られるのは嬉しい?」 「はい。もちろんです。」 「逆に不安は?」 「不安はあります。仕事はどうするんだろうとか。周りの人はどう思うだろうとか。」 「彼のことは? 彼の気持ちはどう思う?」 「彼がどんな気持ちであなたに、そう言ったんだと思う?」 「悪かったと思ってるんだと思います。一緒にいられなかった。他の女性をみていたこと。」  「他の女性?」 「たぶん。私以外に誰かがいたと思います。」 「その話をご主人にしたことは?」 「ありません。」 「なぜ言わなかったの?」 「自分が惨めになるから。言葉にすることで、その事実を知ることになるから。知りたくなかった。」 「誰かに相談した?」 「まさか!こんなこと言えるはずないです。」 「なぜ?」 「なぜって…」 「辛かったんでしょ。怖かったんでしょう。それを素直に言葉に出すこと。」 「それができれば、こんな風に悩み続けることは無かったと思うのよ。」 「でも。」 「あなたのプライドが許さない?」 「・・・」 「幸せな結婚。祝福してくれた家族、友人。私は幸せなの。と言いたいわよね。自分が、可哀そうという目で見られたくないわよね。よくわかるわ。あなたの、気持ち。」 夏の涙が溢れた。 今まで誰にも言えなかった。 幸せなの。そういつも笑っていたかった。彼が時折みせるイライラとしている様子に気遣いをし、できる妻の役割をきちんとこなしているつもりだった。仕事で忙しくしている。帰るのが深夜になっても仕方ない。彼のために食事を作り、彼のために掃除をし、彼のことを待っていた。 なかなか子供ができないのは、私に何か問題があるのかもしれない。産婦人科を受診して、体調管理をするようにもした。最初の頃は、確かにホルモンバランスがくずれていると言われたが、先生の指導の下、頑張ってきた。 結婚をして2年が経つ頃、生理不順も改善してきていたし、基礎体温も少しずつ安定したグラフを書けるようになっていた。 早く子供がほしい。夏は真剣だった。 「今日も仕事遅くなりそう?」 「そうだな。今のプロジェクトがとにかく片付がないことには、毎日こんな時間になりそうだよ」 「そう。」 (今月もまた無理なのかな。) 「信也さん。子供のことなんだけど。」 「うん、そうだな。まあまだ夏は若いんだから大丈夫。そう焦らなくてもいいよ。」 「そうね。」 (彼に抱きしめられたい。もっと優しくされたい。愛されたい。私は愛されていないのだろうか。) 「彼が浮気をしているかも、と思っても別に何の証拠もありませんでした。」 「ただ、なんとなく、そんな気がした。というだけです。帰りがいつものように遅い日が続いていて、私は、彼のためにできること、そう思って彼を待っていました。」 「彼は、『起きてなくてもいいよ。寝てて。』と言ってくれていたけど、妻としては彼を支えなきゃって思って。」 「だけど、ある時少しだけ怒ったような口調で、『寝てていーって言っただろ』って言われたんです。私は慌てて『ごめんなさい』って彼に近寄ったら、なんていうか、逃げるような感じで、避けられたような気がしたんです。 その時にふと、浮気してきたの?って思ったんです。」 「しばらく彼を観察したけど、その時は、気のせいだなって思ったんです。『彼も疲れててごめんね。』ってその時もすぐに謝ってくれたし、その後も優しかった。忙しい時は仕方ないって思うようにしました。」 「それから、何ヶ月かして、また、ふと浮気してきたのかな。って思うことがあって、だとしたら私が何か至らない点があるんだって、そう思うと、何かしなくては。と思うようになりました。」 「でも、なんだか、いつの頃からか、何かしなくては。彼のためにできることを。と、思えば思うほど、何もできなくなってしまって。また、彼に迷惑をかけてしまって。どうしようって。」 「こんな私だから、彼が浮気をしていたとしても、仕方ないんじゃないかって、思ったり。でも、やっぱり、もしそうだとしたら、嫌だと思う気持ちもあって、時々、彼を睨みつけてしまっていたこともありました。『どうしたの?そんな怖い顔して』って、言われて、ふと我に返るというか、そんなこともあったような気がします。」 「子供のことを話ても、なかなか彼は私に触れようとはしなくて、ますますやっぱり浮気してるんじゃないかって思って。私もさらに注意深く彼を観察しました。ただ、やっぱり仕事が忙しいだけなのかなって思ったり。時々、仕事の成果を話してくれていましたし、変わらず優しくもしてくれて。」 「そう思っていた時、寝言で彼がこういったんです。『なつみ』」 なつ、み?・・・
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