新しい歩み

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新しい歩み

未知はきちんと自分の足で歩いてる。私は? 私はどうしたらいいんだろう。 どうしたいのだろう。 『りり、まだおきてるかな。明日迎えに行くよ。』 『ごめんなさい。明日は友達と約束があって。』 『とこかへ出かけるのか。』 『ええ、買い物』 『買い物なら私が連れて行ってあげるよ』 『ありがとう。でも明日は共通の友達のお祝いを買いに行くの。だからどうしても』 りりかは、勇気をだして、小さなウソをついた。 今まで、何度か峰岡の誘いを断ったとき、彼は明らかに不機嫌になっていた。事細かに詳細を聞いてきて、結局自分に合わせるようにと、迫ってきた。ただ、今日は意外とあっさり、そうか。という返信で終わってしまった。 そろそろ、本当に終わりにする日が近づいているのかもしれない。 そして、明日はどこかへ出かけるべきか迷っていた。出かけるってどこへ?特に欲しいものはない。 映画、演劇、何か楽しいものはないだろうか、あわてて検索をしてみる。 よくわからないけど、なんとなく見張られているような妙な感覚。この時間をどうにか楽しまなくては。とにかく、どこかへ出かけなければ。そう思い自分を追い込んでいくりりか。 はじめて、こんな場所へやってきた。 美術館。(ふー、少し緊張するわね。) ケイ。彼が画家になりたかったんだ。と、言っていたことを今更また思い出す。本当だったんだろうか。りりかは、ケイが絵を描いているところを一度も見たことが無い。りりかには、あまり話したがらなかったが、なんとなく、親に反発をしていたようだった。彼が絵を描いてる様子がなぜか目に浮かぶ。一度だって見たことがないのに。りりかは、自分に笑ってしまった。 (変なの。今更こんなこと思うなんて。彼が絵を描いているかどうかなんて、わからないのに。付き合っている頃は、そんなことに興味もなかったのに。)キレイな顔、スタイル。自慢したいのはそんなことだった。なのに今、(彼が好きだったのなら、もっともっとたくさん話せば良かった。彼の考えていることや好きなこと、嫌いなもの、たくさんたくさん。悩んでいること聞いてあげればよかった。)りりかは、今、何が、どうなるかはわからないが、今までと違う行動をすることに意味がある気がしている。 あれから、7年。私もそろそろ、どうにかしないと。ガラスに映った自分の姿を見て、大人になってしまったことを、少し怖く感じた。あの頃は、こんなこと考えもしなかった。若いころから、モテていたし、周りには、たくさんの友達がいた。彼と別れても、代わりはいくらでもいると思った。この先、誰にも必要とされないんじゃないか、そう考える日が来るとは・・。 「お一人ですか?」 急に声をかけられた。 「・・・」 「ええ。」 「そうですか、僕もなんです。絵が好きだけど、なかなか、美術館に一緒に来てくれる友達が居なくて。ご一緒しませんか。」 「いえ、あの。」 「さあ」 なんとなく、促されるまま歩きだしてしまった。 特別に絵を見ても、何がなんだかわからないりりかは、ただただ、この男が耳元で、ささやくような説明に、うなづいていた。 美術館は、とても静かなところだ。物静かなケイにはピッタリな場所。でも、だからこそ、あらためて、私は選ばれるはずがない。とも思った。 峰岡さんと一緒にいるときも、どちらかというと、上品に過ごすことが多い。ただ、二人きりの時は、彼は異常にはしゃぐことがある。普段は紳士なのに、子供のようになる。そのギャップも、楽しかった。私も、彼と一緒に昔の私になって楽しんだ。お金が自由に使えて、贅沢をしてもいい。ただ、新しい友達は増えない。新しい世界は見えない。彼と一緒の時以外は、いつも一人ぼっち。 美術館の中にあるレストランで、私は、ある二人に目を留めた。 夏? 夏と信也さんには結婚式以来会っていない。なんとなく、結婚後は、自分たちとは住む世界が違うという気がして、疎遠になった。 素敵なエスコート。あの時会った信也さんのような気がする。 「どうしました?」 「あっ、なんだか知り合いのような。」 彼は振り向いて、二人を見た。 「まずいですか?一緒にいては。」 「あっ、いえ、大丈夫です。」 「声をかけますか?友人、恋人、どうしましょう。まさか今日知り合いました。って言わないほうがいいですよね。」 思わず、笑ってしまった。さっきまでの雰囲気と違って、急にひょうきんにおどけるように喋りだした彼。 「僕はもちろん恋人がいいです。」 「じゃあ、いいわよ。」と、りりかは微笑む。 「やったー」と小声で小さなガッツポーズをする彼。 「でも、声をかけるかどうかは、正直。高校の同級生、じゃないかなって思うけど、ずっと会ってなかったから。」 「へー、高校以来?よくわかりましたね」 「あっ、いえ21の時かな。彼女が結婚して。その時に。」 「21で結婚。だからか、落ち着いてますね。旦那さん。ですよね?」 また、おどけている。笑いながら 「多分、あの人だったと思うわ。」 「でも、夏、なんだかとても痩せてるわね。」 「りりか、じゃない?」 夏の方がりりかに気づいて声をかけてきた。 今日の夏はとても調子が良くて、陽気だった。 「私も、夏じゃないかって思ってて。」 後ろで信也さんがペコリと頭を下げる。 私は立ち上がって、挨拶をした。 「ご無沙汰してます。夏の高校時代の友人で安藤りりかです。」 「覚えてますよ。」信也さんは微笑んだ。優しい笑顔。そうそうこんな感じの人だった。 「でも、りりかと美術館で会うなんて思ってもいなかったわ。」 夏は上機嫌で話す。 「夏、りりかさん、一人じゃないんだから。」 と、彼に目を向け気を使う素振りみせた。 「あっ、ごめんなさい。私ったらお邪魔しちゃって。」 「いえいえ、とんでもないです。せっかく偶然にあったんだから、ね。」 と、彼はりりかを見た。いつの間にか彼も席を立っていたが、私達は食事の途中。 「座る?」 と、二人に声をかけたが、信也さんが 「いや、僕たちは、実は他で食事の予定をしていて。」 「りりか、連絡先は?変わってない?」 「うん。連絡して。実はこの前、未知にもあったのよ。」 「うそー。福岡にいるんでしょ。」 「そうなの、だからいろいろ話すことがあるわよ。」 「必ず、連絡するね。じゃあね。」 そう言って、二人とは別れた。 「ちぇっ、恋人役やるチャンスがなかったな。」 彼はまたおどける。 「残念でしたー」りりかはなんだか楽しくなってきた。 夏、元気そうだったな。でも、あんな感じだったっけ?はしゃぐような感じ。あんな夏を見たことはなかった。よっぽど幸せなんだろうなー。 「結婚して、何年?凄いね。あんな紳士的な男いるんだ。なんか、夫婦ってもっと、グダグダしてるっていうか、デートなんてしないんじゃないかって思ってたけど」 「確かにね。子供いないのかな。二人で。それとも、シッターさんに預けて、デートを楽しんでるのかな?確か旦那さんエリートだったと思うし。はー、羨ましい〜。」 「ってことは、りりかちゃんは、結婚してないし、彼もいないってことかな?」 「結婚できないし、彼もつくれないってとこ。」 「何それ。結婚したくないってこと?」 「うーん、どうだろ。結婚かあ。ちょっと前は結婚するかーって思ってたけど、なんだろ、わかんない。」
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