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「突然すいません。夏の夫の信也です。」
知らない番号からの電話に戸惑いつつ、スマホのボタンをタップすると、電話の主はそう言った。
「あっ、いえ、どうしました?」
「あれから、その…。夏から、りりかさんへ連絡があったかな?と思いまして。」
「あっ、いえ、特に連絡はないです。」
「そうですか。やはり…。そうか。」
「どうかしたんですか?」
「いえ、なんていうか、一度会ってお話できませんか?」
「えっ?」
「夏の、ことで、その…。少しお願いがあるというか。」
電話ではちょっと話しづらいということで、後日、会う約束をして、電話を終えた。(いったい、何なんだろう。)
1週間後、りりかと、信也は、会員制のバーで会うことにする。こんな時こそ、峰岡と付き合っていることが役に立つ。大事な友人のことで、ご主人が会って話をしたいと言う。できれば、あなたの知っている場所で会いたいの。といえば、峰岡も快く、個室を用意してくれる。
「今日は、すいません。突然のご連絡で。この前も、すいません。実は夏の連絡先から電話番号を探して電話させてもらったんてす。」
「そんなことは、どうでもいいですけど、夏のことって。何ですか。」
まさかとは。思うけど、私の美貌に…なんてことは、ないと思うが、信也のことを、よく知らないわけだし、優が、言うとおり、この男はモテそうな、どことなく怪しい雰囲気もある。
彼から電話があって、会いたいと言われたことを優にも伝えている。あの日美術館で、一緒になった優は、えっー、りりかちゃんが狙われてるんじゃない?って言ったのだ。
だって、こんなに、美人だし。夏さんのことで、って言って安心させて、怪しい。と。だから、つい、りりかは、先を急いで、少し突き放すように、信也へ言葉を投げかけた。峰岡の知るバーを待ち合わせ場所にしたのも、信也の意図がわからかったからでもある。
「実は、あの日からまた、彼女が少し塞ぎこむようになってしまって。」
信也は、ゆっくりと夏のことを話始めた。
信じられない。夏が鬱病?
信也からの告白は、りりかが全く想像していないことだった。
彼が言うには、あの日は、とても、機嫌がよくて、驚いたという。いわゆる躁状態だったのだろうか?ただ、夏の性格から、何となく子供ができず、気持ちが塞ぎ込んでしまう、というのはわからなくもない。
「だから、りりかさんの方から、連絡をしてもらって、夏を外に連れ出してもらえませんか?」
「そうすれば、きっと、夏もまた元気になるでしょう。」
「信也さんの言ってることは、わかりました。」
「私にできることがあるなら…とは、思いますけど、正直どうしていいかわかりません。夏が連絡してこないのは、私に会いたくないからだとしたら。」
「それはないと思います。会いたいと思うけど、素直にそれが言えない。そうい時こそ、さらに殻に閉じこもってしまうようなんです。私は、精神科の先生にいろいろ相談をしてまして、今回の件はその、なんていうか、可能であれば、友達と過ごす時間を作ってあげたほうがいいと言われました。」
「そうですか。」「そういうことなら、私から夏に連絡してみます。」
「ふー」
「どうだったの?」
優に、信也から聞いたことを話した。
「どうしよ、あんまり自信ないなあ。」
「そんなこと、考えすぎない方がいいよ。普通にしてればいーんだよ。変に気を使ったり考えたりしたら、相手も何か違和感感じるかもしれないよ。」
「とりあえず、連絡ないから、連絡した。久しぶりに会おうよ!って感じでいんじゃない?僕も行きたいところだけど、夏さんからしたら、面白くないかもしれないから、いかない方がいいか。」
「他に、誰か共通の、友達は?なんか。いってなかったっけ?誰かに、会ったとかなんとか。」
「未知は、福岡にいる子なのよ。」
「じゃあ、会いに行けばいい。」
「えっ」
「僕も、旅行がてら遊びに行くかなー。」
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