新しい歩み

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「智樹、私やっぱり東京に行くことにした。」 「ウソだろ。俺とのことは?」 「しばらく遠距離できないかな?」 「本気かよ」 「うん。どうしてもチャレンジしたくなったの。」 「そんないい仕事か?」 「東京は違うって。今のマネージャーがね。東京から来たの。福岡には福岡の良さがあるけど、若いうちしかできないのが東京の仕事だって。」 「ふーん、その人、独身?」 「えっ?」 「いや、女の人で、マネージャーで、転勤って。」 「結婚してるわよ。単身赴任だって。」 「マジか、信じられないな。俺は奥さん単身赴任とか嫌だよ。」 智樹は九州の男だ。出会った頃は、九州男児なんて時代じゃない、古いよ。これからは女性も働いてる方がいいよ。って言っていた。なのに、私の仕事を応援してくれる気持ちはないのだろうか。女性も働く方がいいという思いは、今も変わっていないのかもしれない。ただ、きっと、働いてるイメージが違うのだろう。家のこともやって、仕事もやって、子育てもして、みんなそうやっている。結婚するんだったら、それぐらいの働き方をするべきだと思っているのではないか。私の職場でもパートさんがいる。仕事に対する責任感がないとは言わないが、自分のことだけをやっていればいい。彼女たちの基本的な考えはそこだ。 「智樹、私は智樹と別れたいわけじゃない。智樹のこと、大好きだもん。」 「俺だって未知のこと好きだよ。だけど、東京へ行くのは反対だ。」 智樹はなぜかイライラしていた。 自分の器の小さいさに。東京なんて、もっともっといい男がたくさんいるに違いない。俺なんて。と、卑屈になってる自分にイライラしていたのだ。 小さな仕事で満足している。今の生活に不満なんてない。未知と結婚して、かわいい家族と一緒に平凡な日常。俺はそんな生活を思い描いている。なぜ、今更、東京へ行く必要があるんだ。
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